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オマケ・家族




 □■□■□

 四季崎家の三男が成人式を迎えた。

 前日には帰るよう告げてあったというのに、三男は帰ってこなかった。だから早朝、母親は三男の住むマンションまで迎えにいった。強制帰宅させるため。

 思いの外あっさり言うことをきいた三男に気を良くし、母親は久方ぶりの息子との時を楽しむ。そっけない態度には慣れたもの。適当とはいえ返事があるならよしとする。次男に比べればかわいいものだ。

「………つか、仕事はどうした」
「あぁ…若菜さんに任せてきたわ」

 朗らかな母親の返答に、三男は顔をしかめる。

「迷惑かけんなよ」
「あら。快く引き受けてくれたわよ?仲いいもの」

 カラカラと笑う母親に、三男は胡散臭げな視線を向ける。やがて、呆れたようにため息をついた。

 家に着き、着替えると、母親は嬉々として写真を撮り始める。うんざりした頃にようやく会場に向けて出発。自身も車から降りようとする母親を、三男は必死に押し止めた。

「休みなんて滅多にねぇんだから、ゆっくりしとけよ」
 という口実を残し、さっさと会場内に逃げ込む。

「………どうしますか?」
「そうねぇ……せっかくああ言ってくれたことだし、少し羽を伸ばしましょうか。終わる前に戻ってきましょう?」
「はい」

 その言葉通り、三男が会場から出てくると母親はすでに待っていた。姿を見つけ、三男が嫌そうな顔をしていた頃、次男は実家を訪れていた。

 誰もいない居間で煎餅をかじりながら、時計を気にしている。ぼんやりと時を過ごし、飽きてくると持参した本を読み始める。それでもやはり時間が気になり、集中できずにいた。

 実は次男、三男はバックレるだろうなと思っていた。そして、そうなれば母親が力業に出ると知っていた。何故なら次男の時がそうだったからだ。

 ちなみに次男が最終的に母親に従った理由は、叔父の言葉だった。一生に一度のことだし、せっかくだからと。そう言われ、次男はおとなしくなった。むしろ若干乗り気になった。敬愛する叔父に、晴れ姿を見せようと。

 閑話休題。

 ともかく、わかっていながら次男が三男に忠告することはなかった。なぜならこの時ばかりも次男は母親の味方だったからだ。積極的に協力こそしないが、邪魔もしない。かわいい弟の晴れ姿が見たいばかりに。

 玄関から物音が聞こえると、次男は慌ただしく駆け出す。

「史規!おかえり!」
「あ?」
「あら、帰ってたの?志渡」
「似合ってるじゃないか。写真、写真をとろう。マスターにも見せたい」

 三男が次男をうっとうしく感じてる頃、長男はコーヒーを飲みほし立ち上がったところだった。

「あ?もう行くのか?」
「ああ。家にも寄りてぇし」
「あー、あのちっこいおとなしいガキがなァ…もう成人かー」
「おう。オレに似て良い男に育ったぜ?」

 ケラケラ笑う友人を残し、長男は退室する。自宅に着くと一度居間を覗いてみたが目当ての姿はなく、次男が母親と言い合いをしていた。

 その光景を軽く笑い、ならばとふらりと足を進める。人気のないとこ、人気のないとこと鼻唄混じりに歩み、話し声が聞こえてきた。

 ひょいと覗き込めばそこには三男の姿。

 やけに優しく愛しげな表情で携帯で通話している。春か。春が来たんだなと長男は感心し、口笛を吹きそうになった。そんなことすれば見つかってしまうのでしないが。

 聞こえる話を繋ぎ合わせれば、晴れ姿を見たいと頼まれたようで。自分から写真を見せると言い出したのを聞き、長男の目元が緩む。他の人間ならば快諾したりはしないだろうに。お前の時は描かせろとの台詞から、相手が年下なのだと知れた。

 それじゃあと、そろそろ切る雰囲気になっても、なかなか携帯を耳から話さない姿には笑いが零れた。切っても、名残惜しそうに、幸せそうに携帯を見つめている。

 甘酸っぱいなぁ。青いなぁなどと思いながら眺めていると、ばっちり目が合った。途端、一転して嫌そうな顔になる。

「…………あんた、仕事はどうした」

 うっとうしがる三男に、長男は嬉々として絡む。姿を見て、少し話ができればそれで良かったので、仕事に戻れとの三男の言葉に抵抗はしない。

 ただ、去り際に告げられたお願いに、愉快な気持ちになった。初恋ではない上にそれなりに女性経験があるというのにこの初々しさ。違うと言っていたが、ならばどうせ付き合うまで秒読みの段階だろう。長男はそう推測した。

「ああ、そうだ。親父んとこも行くんだろ?よろしく伝えといてくれな」
「………よろしくって」

 呆れたような三男に、気持ちの問題だと告げ長男は仕事に戻った。

 一方の三男は、母親に連れられ親戚の家を訪れるはめになっていた。なぜか次男もついてくる。親戚に会いたいから、ではなく少しでも長く三男といたいがために。嫌がる三男を前に、実は次男はちょっとだけホッとしていた。

 最近、僅かにだか三男が歩み寄ろうとしてきてくれていた。すると次男は途端にどうして良いかわからなくなる。嫌われたいわけではない。歩み寄ってくれるのは嬉しい。それはもう、物凄く。

 けれど邪険にされるのに慣れてしまったがため、戸惑ってしまうのだ。

 とにもかくにも親戚回りをどうにか終える。三男はすぐに着替えて帰ろうとしていた。次男も半日一緒にいられたので満足したし、母親も目的を達したので邪魔するものはいないかと思われていた。

 だがしかし、長男がいた。

 三人が戻るとすでに帰宅した長男がいた。そして楽しげな笑みと共に告げる。

「呑むぞ」

 お誘いではなく決定事項として。しっかり酒とつまみを用意して。三男は嫌そうに顔をしかめた。とにかく早く帰りたかったのだ。その理由を口にすることはできないが。結局、おし負けて一杯だけならと了承してしまったが。

 それを聞いた次男は、なら自分もと言い出した。長男がいるのは気にくわないが、自分だって三男と酒を呑みたい。

 遅くなるよう叔父に連絡しようとして、その前に長男がおもむろに携帯を取り出す。

「あ、駒さん?オレオレ…アハハハ…志渡一晩借りるから…は?…ハハッ…ハハハッ…じゃっ」

 ピッ

 電話の向こうの声を笑い飛ばし、長男は次男に爽やかに笑いかける。サムズアップつきで。何をしてるんだと次男が長男に詰め寄る内に、三男は関係ないとばかりに着替えに向かった。

 呑み始めて、一番に次男がつぶれる。三男はつまみにあまり手をのばさず、ちびちびと呑んでいる。長男の呑むペースは早いが、酔う気配は全くない。

「夕飯食ってねぇんだろ?」
「ああ」
「食わねぇの?」
「………ああ」
「ふぅん?」

 酔いが回ってるわけでもないのに愉快げな長男に、三男は胡散臭げな眼差しを向ける。それからクイッと残りを飲み干すと立ち上がった。

「帰る」
「なぁに、んな急いでんだよ。どうせ帰ったとこで一人だろぉが」

 クツクツと笑う様はまるで全てを知っているようで。三男は顔をしかめる。

「それとも、ここは居心地わりぃか?」
「……………夕飯の準備、済んでんだよ」

 嘘ではない。ただ、誰が作ったのかを省いただけ。

「用意のいいこって。一晩ぐらい放置したって平気だろ?」
「よくねーよ」
「なら、次ん時はゆっくり呑むぞ」

 やはり決定事項として告げてくる長男。三男は呆れを見せながらも了承し、実家を後にした。次男はぐいぐい来るから、ぐいぐい押し返す。けれど長男はぐいっと押し、さっと離れる。いわゆるヒット&アウェイ。なので三男はいまだ対処の仕方と言うか距離の取り方をはかり損ねている。

 一人残った長男が手酌で呑んでると、カラリと戸が開いた。

「………史規君、帰ったんですね」
「んー?…ああ」
「志渡君は…帰れなさそうですね」
「まぁ、駒さんに一晩借りるつったしなぁ」
「なら、お布団を……」
「いい、いい。後でやっとく。それより……」

 ぐいっと長男が腕を引き、抱き寄せる。

「な、ななな何を…?」
「今日はお疲れさん。疲れたろ?」
「そ、そんな…私なんて………や、役に立てたなら、それで…」
「たった、たった。すっげーたった。ありがとなー」
「………っ!?」

 チュッとこめかみに唇を押し当てれば、ボンッと音をたてて顔が赤くなる。

「な、な、何を……」
「ん?ご褒美?」
「た、タチが…タチが悪いったら……っ」
「ハハハッ。悪い男に引っ掛かったなぁ?ま、諦めろや、若菜」
「わ、悪い男ですけど……でも、良い男ですっ」

 キッと涙目で睨み付けられ、長男は腹を抱えて笑い転げた。





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