デート
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どんな反応をするかと思っていたら、無反応だった。
変な奴。
目を覚ましたら勝手に帰るかと思っていが、もう少し休んでいきたいと言い出した。一応承諾はしたが、もう少しというのはどれくらいなのだろうか。
まぁ、少しは少しなのだろう。そう思っていたのだが、さすがに目の前の状況には首をかしげるしかない。
何で風邪、ぶり返してんだ?
昨日、ほとんど一日中寝ていたが、もうほとんど完治しているものと思っていた。大事をとって休んでいるだけなのだと。
けれど、今朝リビングに入るとソファの上で苦しそうにしていた。拾ったときと同じ、もしかしたらそれ以上に。
何でだ?
無言で凝視していると、まぶたがわずかに開いた。すぐに視線をそらされる。
「……………………」
まぁ、いい。
「薬、いるか?」
まぶたを押し開け、こちらを見る。しばらく、無言で見つめ合う。今度はゆるくうなずいた。
薬をのむなら何か腹に入れなくてはならない。粥を作るため台所へと向かった。
できあがった粥と薬とをテーブルの上に置く。椿がのそのそと起き上がった。用意されたものをしばし見つめ、一言。
「………無理」
「………は?」
「今……食べ、たら…吐く」
「………好きにしろ」
空腹のまま薬を飲んで、どう問題があるかなど知らない。だから、食べられないならばそのまま飲んでしまえばいい。自分ならば確実にそうする。
だから、食べるか否かは本人に任せてリビングを後にした。
しばらくして飲み物をとりにリビングを通ると、苦しそうながらも眠っていた。テーブルの上を見ると、粥はほんの一口二口だけ減っている。結局食べたのか。
残った分は台所に片付けておいた。
椿が寝込んだまま数日が過ぎる。
看病、というほどのことはしていない。リビングに用があって、なおかつ椿が目を覚ましていた時のみ一言二言声をかけた。大抵は大丈夫と言われる、もしくは首を横にふられるのでほとんど何もしなかった。
食事の時も、特に気にすることなくソファに座った。何度か、椿がこちらをぼんやりと眺めながら、嬉しそうな顔をしていた。その表情がひどく印象に残っている。
「………汗、流したい…」
「……それは無理だろ」
「うん……わかってる」
なら言うな。
小さく息をつき、リビングを後にする。しぼったタオルを持って戻った。
「……ほら」
「あ………ありがとう」
受け取ったタオルに顔を埋め、気持ち良さそうに息を漏らすのが聞こえた。
そんなことをつらつら思い出しながら大学の構内を歩く。並木道、木陰の風がわずかに涼を運ぶ。
朝、家を出る時、椿は寝ていた。昨日の様子ではもう治っているように見えたが、実際はどうなのだろう。また、ぶり返すのだろうか。
身許不明の他人を一人残して家を出るのはどうかとも思ったが、課題を提出しなければならない。まぁ何となく、問題ないような気がして放置してきた。
何なのだろうか。あれは。
病人だけども手はかからないし静かだし。本当にただそこにいるだけの存在だ。
空気のよう、とでも言うのか。
いや、空気はなくては生きていけないがあれはいなくても平気だ。けれど他に例えようがない。
………やっぱ幽霊か?
そこでピタリと足を止める。
回れ右をして今来た道を引き返す。が、遅かった。後ろから名前を呼ばれた。
「あ、四季崎」
振り返らずに歩き続ける。
近づいてくる気配がするが無視する。別に早足で逃げるように歩いている訳じゃないので、すぐに追い付かれた。
「…………無視してる?」
「……………………」
「ねぇ、無視してるよね」
「……………………」
「ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど」
「……………………」
「もしかしてまだ怒ってる?」
わかってるなら声をかけてくんな。
「……………………」
「……………………」
「……かまってよ、しーちゃん」
がっと隣でしつこく付きまとってくる奴の首を、片手で絞める。
「おまっ…何でそれを…っ!?」
「えー、おにーさんに聞いたんだよ。てか苦しいって」
「………」
軽く叩かれた手を離し、憮然と睨み付けるとにっこりと笑った。
「やっと振り返ってくれた」
まったく悪びれた様子のない態度にため息がこぼれる。腹をたてるのがバカらしくなってきた。
「……で?」
きびすを返し、歩き出しながら話の続きを促す。
「ん?」
「用は?」
「あぁ、デートしよう」
「……………………」
「デート、しよ」
「断る」
「大丈夫。相手オレじゃないから。今からデートしよう」
人の返事をまるっと無視して、腕をつかむとぐいぐいとひっぱる。
「デートしてくれたらさっき無視したの許してあげる」
許してくれなくて結構だ。つか腹をたてていたのはこっちなのに何で立場が逆転してんだ?。
だからこいつと関わるのは嫌なのだ。
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