10 いつもは気にならないキーボードを打つ音がやたら大きく感じる。一人じゃないんだなぁ、ってこんな小さなことでも思っちゃう。 元親さんの眠るベッドから少し離れた机の上、立ち上げたパソコンを使って元親さんについて調べてみた。 土佐の戦国大名、長曾我部氏第20代当主…おおぉ、自称「四国を束ねる西海の鬼」は本当だったんだなあ。 あの織田信長とか豊臣秀吉なんて言う有名どころと同じ時代に生きて戦った人なんだ…。そんなすごい人が今あたしの部屋に! なんて思いながらページを読んでいると、「1563年に美濃斎藤氏から正室を迎え…」という文章が目に入った。この元親さんがここに書いてある長曾我部元親さんと同一人物だとすると、生まれ年から計算して24歳で結婚ってことになる。 え、この元親さんは既婚?未婚? いやいや、年頃的にはそのくらいじゃないかなぁと思うんだけど…既婚者だとしたらあたしちょっと奥さんに殺されるんじゃないかな、大丈夫かな…あ、でも側室もいるくらいだからそこら辺は許されるのかな…そういう時代だもんね!← 一通り読んでからページを閉じる。 時代劇なんかでしか知らないような、刀を持って人を切ったり土地を奪ったりしてた時代から、本当にこの人は来たのかも。まぁあのジャケットを見る限り、歴史上の元親さんとはちょっと違うみたいだけど。 歴史の通りの人生をこれから元親さんが歩むとも思えないしね、こんな21世紀にトリップして来ちゃって…そりゃあびっくりもするよね、知らないものだらけの世界なんて。 この世界で元親さんが生きていくには絶対に誰かの手助けが必要だ、うん。この部屋に元親さんが降って来たのも何かの縁!あたしが一肌脱ぐしかないっていうか、これは神様からのお達しなんだ! …はっ! なんか一人でアツくなってしまった…夜中に一人でガッツポーズとかどんだけだよあたし。 とにかく、これからどのくらい彼がここに居るのかはわからないけど、一緒に居る間はあたしが守ってあげなくちゃ。 「なまえ、なまえ」 「んぅーー…」 「そろそろ離してくれねぇか」 「うー、んー?…まだ、ねむい」 「…離したらまた寝ていいからよ、」 「はなす?え、」 すごく近くから聞こえてきた声に、元親さんだとぼんやりした意識の中で思った。けど体はなかなか動いてくれなくて、ゆっくりと目を開けるとそこには元親さんの肩。 なにを勘違いしたのか、あたしは元親さんの左腕にしがみ付き、更には左足に自分の両足を絡めるようにしてコアラよろしく抱きついていたのだ。それはもう、完全に抱き枕にしてしまっている。 「ありゃ…これは失礼しました」 「昨夜も遅かったみてぇだしな、起こすのも悪ィと思ったんだがあまりにも起きねぇから」 「元親さん、早起きですもんね…ふあぁ、おえんあはい」 しゃべってる間に少しは目も覚めてきたと思ったけど、大きなあくびが出てしまった。 「あくびしながらじゃ何言ってるかわからねぇ」 「ごめんなさい」 「おう…まだ寝るか?」 元親さんはそう言ってくれたけど、起き上がった元親さんに倣って体を起こすとあたしの正直なお腹が空腹を告げた。 「ご飯食べたいですね」 「ははっ、じゃあ朝メシにするか」 backnext |