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ペントハウスランチ1







アルミで出来た扉を開けると、青い空が広がっている屋上に出た。そうか、今日はいい天気だったと思い出して同時に今朝校内に入ってから窓の外を見る余裕すらなかったのかと気付く。せっかく窓際の席だったのに。


先に屋上のコンクリートに足をつけていた佐助に倣って、視線を空から地面へ落とす。貯水タンクの影に一人、生徒が座っているようだった。


「旦那ーっ、お待たせ。ほい弁当」
「おぉ佐助!遅いぞ、待ちくたびれ…そ、そちらは?」
「今日ウチのクラスに転入してきた、なまえちゃんだよ」
「みょうじなまえです、初めまして」
「なんと!転入生でござったか!俺は真田幸村、佐助とは幼馴染で同居人。ちなみにクラスは隣だ」



真田幸村という人は、まさに今あたしたちの頭上に広がっている青空みたいな人だと思った。音で表すなら、“すかーん”だ。底抜けに明るい顔で笑っていると瞳は隠れてしまうが、その瞳はとても澄んでいる。前回の任務で行った遠い国の良く日に焼けた子どものそれと似ている。


「なまえちゃん、ずっと外国暮らしだったんだって。それで今日はなまえちゃんのことをよく知ろうの会をお昼の友に、と思って連れてきちゃった」
「なんだその不思議な会は。聞いてないぞ」
「へへー、今作った!」
「外国暮らしとはどのようなものか、俺も聞いてみたいのだが…聞いてもいいだろうか?」


初対面の人間に対する態度としては後者の方が正解だと思う。

にしてもどうしたものか。詳しく話せるほど細かい設定は作ってない。ボロが出ては今後の作戦に支障を来す恐れもある。こういうのはあたしには向いていない。もう本当のことを話してしまいたい。


「どのようなものか、と言われても…」




「おぅおぅ、もう始めちまってんのか?」
「元親殿!」
「わ、ナイスタイミングー。ちょうどこれからだよ」



扉を開けて来たのは先ほど教室で見かけた後姿のその人。しっかりとした体つきと白銀の髪に見覚えがある。後姿ではわからなかったが、左目に眼帯を付けた風貌はどこか軍人のそれと雰囲気が似ている。どかりと豪快に座ってその隻眼にあたしを映した。


「転入してくるには時期外れな気もするが…まぁ細かいことはいいか。俺は長曾我部元親ってんだ、よろしくな!転入生!」
「元親、転入生はなくない?なまえちゃんだよ」
「なまえか、わかった、なまえな」
「元親殿は“鬼”の通り名を持つ男でござるよ!」
「鬼、ですか?」
「おぅよ!この辺で“鬼”と言やぁ、ちったぁ有名なんだぜ」
「はぁ」


鬼、鬼?鬼は外〜の、鬼でいいのだろうか?彼のどの辺りが鬼なのかあたしには検討がつかない。にしても本当に立派な体だ。制服の上からでもわかる筋肉の付き方のバランスの良さ。しかし顔は相応に幼さを残していて、その笑顔は佐助のそれより真田、くんに近い。


「なまえ殿、頭にはてなが浮かんでおるが大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫です」
「どの辺が鬼なのかなーとか考えてたんじゃないの?」
「な!佐助はそういった能力を持っているのか?」


教室での会話といい今といい、何やら心の内を読む力とか、そういう類のものを持っているのではないかと本気で思う。


「確かにちょ、長曾我部くんのガタイを見る限りでは立派だと思う。しかし鬼というのは…よくわからん」
「ははっ!やっぱおもしろいね陽ちゃんってば。俺様の読み、当たった?」
「あぁ、佐助もよくわからん」
「酷い言われようだな、佐助!」
「まったくだよ」


長曾我部くんとやらの名前は言いにくくて敵わない。というか日本人は名前が複雑で発音が難しいのが多いし読み書きも面倒だ。


「なまえ、俺のことは元親でいいぜ。咬んだだろ今」
「…う。日本語を日常的に使うことにまだ慣れてなくて申し訳ない、です」
「敬語もいらねぇよ、俺らタメじゃねーか」
「俺もタメ口の方が話しやすい。なまえ殿がよければ俺のことも幸村と呼んで欲しいでござる」
「元親、幸村…佐助には言ったが、あたしのタメ口というのは、その、」


事前情報よりも現代日本の高校生はフランクだ。佐助もそうだったように、彼らもあたしと対等で居てくれようとする。そのためには口調を直すのも課題だな…。


「はいストーップ、ネガティブ禁止!タメ口呼び捨てでいいんじゃね?っつーか寧ろそれが普通だろ」
「佐助…。わかった。ポジティブを心掛ける」
「なまえ殿、佐助の言うことはよく聞くようだ」
「ホントだぜ!刷り込みみたいなもんかぁ?」


刷り込み…インプリンティングというやつか。失礼な。あたしは雛鳥じゃない。


苦笑する佐助、感心したような幸村、豪快に笑う元親。

ここは平和な国だ。こうして集まるランチタイムというのも、悪くない。今もどこかで戦火が上がっていることなど、忘れてしまいそうになる。


緩やかな時間が流れていたが、各々用意した昼食を摂り始めた頃、佐助の一言によってあたしはまた頭を抱えることになってしまった。くそぅ…。


「で、外国での話は?」











このメンツは基本、名前で呼び合います。佐助は幸村を旦那、アニキを元親と呼びます。幸村に対する「旦那」以外って思いつかない…かといってアニキを「鬼の旦那」って呼ぶのは高校生としてどうかと思うし。悩みましたが、この連載ではこれで!


09/08/21


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