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ボーイミーツガール






クラスメイトとの初顔合わせはあの質問タイムのおかげで相当な難関になったが、なんとか乗り越えた。…スリーサイズにまつ先生が待ったをかけてくれて助かった。


そのまつ先生に促されて窓際の一番後ろに新たに設けられた席に着くと、ホームルームが始まる。学校生活を送ること自体が久しぶりなあたしは、手にしていた通学カバンをクラスメイトに習って机の横に下げて一息。思えば小学校に通っていたのも僅か1年弱、学校という囲いの中で一日のほとんどを過ごすという学生生活をあたしは上手くやっていけるのだろうか。




「…なので、今日は午後の授業が自習になります。プリントが用意されてるので、それをやって放課後までに提出してくださいね。ではホームルームを終わります」


プリントを提出するのはそんなに苦痛なのだろうか、クラスメイトは嫌そうな顔で思いっきり不満を口にする。

…そんなに課題が苦痛ということは。事前に入手した情報以上のもの、ということなんだろうか。この学校のレベルに見合った知識は先週まで受けていた艦内での地獄の特訓(という名の副長殿による特別授業)で身に付いたとは思う、が。


周りの反応で一抹の不安を覚えたあたし。無意識に机の一点を見つめていたらしく、目の前でこちらに向けられた視線に反応するのが遅れてしまった。



(この一瞬が、戦場では命取りだというのに)



「みょうじ、なまえちゃん」
「はい、なんですか?」
「俺様は猿飛佐助、よろしくねー」


体の正面をあたしに向けるように座った前の座席の男子、猿飛佐助というらしい。にこにことした笑顔はなんだか裏があるようにも見えるが…ここで怪訝な顔をするのは得策ではない。口角を上げて敵意のないことを示すと、右手をずい、と差し出される。


「はい、よろしくお願いします」


そういえば、ちゃん付けで呼ばれるのも日本に住んでいた頃以来だ。艦内では最年少、しかもクルーの大半は欧米人でみんな一様にフランクだからほぼ全員があたしを呼び捨てにする。かといってそれ以外のクルーに付けられる敬称は“軍曹”しかないから、呼び捨てにしてくれた方が助かるといつも思う。


「なまえちゃんって礼儀正しいねぇ。外国育ちなのに意外っていうかなんていうか、」
「あたしが育った環境は、周りに年上の方が多かったもので」
「そーなの?でも俺らタメだしクラスメイトだし、敬語いらないからね」
「…気をつけます、猿飛くん」




“人間関係は円滑に”


これは市街での戦闘を含む任務を確実に遂行するための最低条件だ、紛れ込んでいる間は特に…といっても今回の任務の内容は大佐殿が戒厳令を敷いているらしく、詳しいことはわかっていないのだが。本当にあの方は何がしたいんだか。艦から送り出されたときの彼の表情が悪巧みをする子どものようだったと、数日前の情景が浮かんだが、彼の采配にこれまで間違いがなかっただけに異論はなかった。


「まぁた言ってるそばからー。無理にとは言わないけどさ、タメ口で呼び捨ての方が早く仲良くなれる気ィしない?」
「…そうだろうか?あたしはまだ日本語を上手く使えないことがあるかもしれないから、」
「なるほどねー、そうやって周りに気を使っちゃうタイプ?」
「え?」
「なまえちゃんの言いたいこと、なんとなくわかるよ。上手い言い方がわかんなくて、それで俺や周りの人が不快な思いをするかも、って思ってるんでしょ?」


少し驚いたのが表情に出ていたかもしれない。彼の言うことが的を得ていたから。笑顔の裏に、この猿飛佐助という人物の内面を見た気がした。


「あぁ、その通りだ」
「なまえちゃんちょーっと言葉遣いが堅苦しいからねぇ」


嫌味には聞こえない。言葉遣いが堅苦しいのは十分に自覚していることだ。10にも満たない年の頃から軍に居た結果がこれだ。しかも公用語は英語だったし、日本での数年間で得た言語知識を補ってくれた人も軍人となれば堅苦しくもなる。


「やはり日本の高校生にはそぐわないだろうか?」
「そぐわないって…すごい言い回しだね。そういう時は『やっぱりここじゃ浮いちゃう?』ぐらいでいいんじゃない?」


軽く言われたその言葉。これが平和に暮らす日本の高校生というやつか、と納得させるものだった。


「小首をこう、傾げんのもアリだと思うよ」


“にこにこ”笑っていた彼の表情は、いつしか“にやにや”に変わっている。


「…善処する」
「あはー、残念!やってくれるかと思ったのになぁ」










09/08/16



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あきゅろす。
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