[携帯モード] [URL送信]
サミングピッチ






寝起きのいい慶次に起こしてもらうところから休日の朝の日課であるランニング、そのコースやシャワーの時間、朝食のメニュー、事務処理の必要がある書類の提出と定時連絡まで何もかもがいつも通りだった。生活のリズムが規則正しいのはいいことだ。正規の軍人ではないにしても、体が資本なのは同じ。いつでも体調を整えておくことが自分の身を、仲間の命を守ることに直結するから。


でも今日はイレギュラーなイベントがある。






「早めに出て、駅前のケーキ屋にでも寄って行きなよ!友達の家に遊びに行くときのマナーだから覚えておきなさい、なーんつってな!」
「ケーキ屋か、わかった」






昨日、慶次が見立ててくれた服を着てセーフハウスを出る。日本にはそんなマナーがあるのか、と記憶しながら駅までの道を歩く。普段履いている通学用のローファーとは違い、少しだけヒールのあるブーツがコツコツと足音を立てた。


(コンバットブーツなら履いたこともあるが…これはこれで軽くて歩きやすい。音は消しにくそうだけど)


駅はセーフハウスから学校と反対側に10分程行った所にあり、そこで幸村と元親と待ち合わせをした。時間はまだたっぷりある。ゆっくり手土産を選ぼうと、慶次の言っていたケーキ屋を探していると、ポケットの中の携帯が着信を告げた。


「はい」
「おうなまえ!まだ家か?」
「いや、駅前にいる」
「…早っ。もしかして、佐助たちに何か買ってくつもりか?」
「そうだ、それがマナーだと聞いた」
「まぁそうかもなあ。よし、俺もすぐ行くから一緒に買おうぜ」
「ああ、では東口で待ってる」
「りょーかい!チャリぶっ飛ばすから10分で着くぜ」



それから本当に10分足らずで到着した元親と合流して、ケーキ屋に向かった。着いた店は中々に賑わっているようで、若い女の人がショーケースの前でケーキを選んでいる姿が多く見られた。


「…あの中に入るのか」
「いやソレ心配すんのなまえじゃなくて俺だろ普通」
「でもあたしはケーキ屋は初めてだぞ」
「…向こうには無かったのか?」


元親の言う“向こう”とはアフガニスタンのことだろうか。実際にあたしがここに来る前に居たのはアフガニスタンではないが、住んでいた事はある。少なくともその頃はこんな小奇麗な店は無かったな。


「それにしても…私服、初めてだよな」


ぼそりと言われた言葉にぴくりと反応する。


「あぁ、学校の外では会ったことがないからな。…変か?」
「へ、変じゃねぇよ、」
「そうか?その…やはり自分ではよくわからなくてな」
「着慣れてないからってだけだろ?心配すんな、ちゃんと似合ってる」
「…ありがとう元親」



ようやく店内に入りショーケースを見れば、色とりどりのケーキが並んでいた。甘い物好きな幸村のために多めに数を揃えて注文した。綺麗に箱詰めされたそれを受け取って、幸村と落ち合うために駅へと戻った。









「元親殿、なまえ殿!すまぬ、お待たせした」


軽く息を弾ませた幸村が大きな荷物と共に自転車で現れた。部活で使う道具らしく、袋に入った棒状のものはなんだ…剣道というのはこれを使って戦うのだろうか?


「さぁ、参ろう!」
「佐助のメシ、久々だぜー」
「楽しみだな」
「して、なまえ殿」
「なんだ?幸村」
「その服…よく似合っているでござるな!」


自転車を押して歩く幸村に連れられて、二人の家に向かって歩き出したとき。やはり幸村は真っ直ぐに目を見て物を言う。その時あたしは何故か、初めて幸村に会ったときの事を思い出した。澄んだ瞳は、言葉に嘘がないということを事をこれでもかと言うくらい訴えてくるようだ。


「ありがとう、幸村」
「お、俺は…思ったことをそのまま伝えたまでのこと!」
「はは!よかったじゃねぇかなまえ」


慶次に見立ててもらったこの服、どうやらあたしを年相応に、それなりに普通に見せてくれているらしい。これは改めて慶次に礼をしなくては…。







「ここでござる。自転車を置いてくる故、しばし待っていてくれ!」


そう言って到着した建物の脇へと入っていき、戻った幸村を先頭に幅の狭い階段を上る。一つの部屋の前でノックをすると、中から顔を出したのは…佐助。もちろん佐助なのだが。


「ただいまでござる!」
「おかえり旦那。おつかれー」
「相変わらず似合うなぁ、それ」
「うるさいよ元親。家事って意外と服汚れるんだぜ?」
「さ、佐助…」
「そんな驚かれても俺様どうすりゃいいのさなまえちゃん」
「あ、ごめん…お邪魔します」
「いらっしゃーい」


佐助、幸村、元親に続いて部屋に上がる。玄関から一つ扉を越えたところにリビングがあった。小さめのテレビ、クッション、四角いテーブルの上にはリモコンしか乗っていない。ハンガーに掛けられた制服のシャツは綺麗にアイロンがけされている。こう言っては何だが…とても片付いた部屋だ。


「綺麗な部屋だな」
「ふはは!佐助の家事能力は秀逸でござろう!」
「なんで旦那が威張ってんのさ;」
「いつ来てもこうなんだぜ!」
「元親も!」


まったく、と言いつつも満更ではない顔をする佐助。以前に聞いた話では義務感のようなものを感じているのかと思ったが…これは単に好きでやっている気がする。


「もう出来るから。先に手、洗っておいで。旦那は運ぶの手伝ってねー」
「ああ!洗面所はこちらでござる」
「ちょ、旦那!家の中で走らないの!」


目の前で繰り広げられる会話には二人の関係性がよく現れている。幼馴染というよりは兄弟、親子に近い気もするが。これほど干渉し合う生活を送っていないあたしにはわからないが、単純に羨ましいと思った。



「あぁ、なまえちゃんちょっと待った!」
「?なんだ」


洗面所に案内してくれるという幸村の後を元親と共に着いていこうとすると、佐助に腕を引かれて立ち止まる。振り返ったあたしを頭の先から足の先までを観察された。この視線は…落ち着かないんだが…。



「うん」
「何がうんなんだ…」
「やっぱりかわいい」
「…っ!」
「はい、じゃあなまえちゃんも手洗って座っててよ」



ひらりと手を振ってキッチンへ戻る佐助。好みの服だったんだろうか?

それにしても。






(慶次はすごいセンスの持ち主らしい)





(いやいや、予想以上だっての!)








元親と幸村は「似合ってる」で止めるけど佐助は「かわいい」まで言っちゃうと思う。笑
そしてなまえちゃんは慶次に脱帽、佐助はキッチンでちょっと悶えてればいいよ。それを幸村に珍しく気持ち悪がられるとかね…!

09/11/07


backnext

3/4ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!