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アンダーファイア










「検討を祈る」
「「了解!」」








作戦開始直前、出撃前の大佐殿の号令を受けると自然、体は戦闘態勢。M9に搭乗し、格納庫から“ダナン”の気密チェンバーへと移動させ、出撃の準備に入る。


ジェネレーター、正常。
制御系、正常。
ヴェトロニクス、正常。
センサー、駆動系、衝撃吸収系、冷却系、FCS、各種警告システム──すべて正常。


なまえはコクピット内でサスペンドモードにしていた機体をミリタリーモードへと移行する。


小さな起動音とともに機体の制御がはずれ出力が上昇、センサー類が慌しく動き始めた。なまえの乗るM9のAI、“リック”が音声認識でデータを開く。


《サージェント、優先回線T1よりメッセージ》
「開いて」
《ラジャー。“戻ったらコーヒー頼む”》
「…ガルム7よりT1へ、60秒後に送信。“   ”」
《ラジャー》


発進シークエンスを開始した機体の中で小さく息を吐く。



(直接言ってくださればいいものを…でも)



射出前のカウントダウンを聞きながら高揚感を抑えると、大佐殿の気遣いがじわりと胸に届くようだ、となまえは思った。



(頼まれたら、帰らないわけにはいかないじゃないか)



水中でゴゥンと扉の開く重い音がして、機体が射出される。体にかかる重力、レバーを握る両手にも力が入った。水中から水面に躍り出たM9が6機、闇夜に紛れて目的の米軍基地へと突入を開始する。










「ガルム7よりT1へ…大佐、なまえからの返答です」

発令所内の通信担当仕官が政宗に声を掛ける。

「ああ、なんだって?どうせつれねぇ返事だろうが、」
「“喜んで”だそうですよ」

簡潔な返答がなまえらしい、と政宗は口元が歪むのを止められない。

「Ha!…こりゃあさっさとこの仕事、終わらせねぇとな!」
「「Yes,Sir!」」

15名弱の発令所内のクルーが声を合わせるせて皆、一様に笑う。作戦中とは思えない光景だった。












港の死角から上陸、作戦通りのポイントへ散開する。


『ガルム6、狙撃位置に着いたぜ』
『ガルム1、了解。各位用意はいいか?慶次の合図でパーティ開始だ』
『『了解』』


「そいじゃいっちょ、おっぱじめるかい!」


慶次のM9が高台のポイントから、肉眼では遙か彼方に見える米軍基地の火薬庫を狙う。派手な爆発音と炎、煙を上げながら燃えていく建物と慌てふためく米陸軍ども。このまま攪乱を目的とするなまえたちの班はM9を駆って敵の主戦力を島の北へと誘導する。



さすがは悪名高い米軍基地、やたらと数の多い相手に少なからずうんざりとする。最新鋭の戦車がわらわらと出てきたり重火器を担いだ歩兵も多く、センサーも絶賛稼動中だ。



《サージェント、一時方向に多数の熱源を確認。距離200》
「サブディスプレイでズームして」
《ラジャー。熱源数、10》
「歩兵…?」



“リック”の報告を視認してオリバー大尉に連絡を入れる。オリバーの指示で、なまえは共にM9を降りて調査に向かうことになった。二人の搭乗機はECSを不可視モードで作動させ、森の中に隠した。それを慶次が保護する手筈になっている。








「作戦終了まで時間はそう残ってはいない、急ぐぞ」
「了解」


オリバーの後に続いたなまえは、センサーが探知した熱源の集まる何らかの地下施設の入り口にいた。先述のとおり、撤収までの時間はあと僅か。だが無視できないのも事実だった。


「ったく、情報部の情報はいつも詰めが甘いな」
「同感です。しかし…余程重要な機密がありそうですね」


なまえたちがそう思う理由。まず入り口に入ってからの通路が極端に狭いのだ。なまえは小柄なので特に弊害はないが、体格のいいオリバーは体を斜めにしてやっと通れるほど。しばらく続いたその通路を抜けると、たくさんのケーブルが地面を這い回っている部屋に出た。気配を殺して中を探るが人気はない。


(まだ奥へと通路が続いているのだろうか?)


二人が辿り着いた部屋は大型の機械が壁一面を覆うほどあり、専門知識のないなまえには何をする機械なのかはわからなかった。部屋の右奥に簡素なドアを見つけ、目線で合図をし合ってから近付く。


微かな気配を感じて、持っていた銃を構える。いつもカバンに入れているものと同じグロック社製の拳銃。引き金を引いた状態にしたそれを構え、呼吸を合わせてドアの向こうの制圧にかかる。




数人の米軍兵士が早口の英語を喚きながら発砲してくる。短いスパンでこちらも応射しつつ、オリバーとなまえは左右に別れて物陰に飛び込む。直後、キン!という耳障りな音がして手榴弾が爆ぜた。割れた壁の小さな金属の欠片がなまえの頬を掠めた。


敵の持っていたアサルトライフルはこちらの拳銃より火力は上だ。撃ち込んでこられては勝ち目が無いが、あちらはまだ突然の襲撃に対応し切れていない。反撃の手順から見ても相手の歩兵の経験値は低いだろう。戦力の分析を一瞬で終わらせ、なまえはオリバーの隠れた物陰へ転がり込みながら正確にアサルトライフルを無力化していく。


合流したときにはすでにオリバーも5、6人を仕留めていたらしく、残りは指示をだしていた指揮官と思われる男のみ。この施設の情報を聞き出さなくてはならないので、指揮官は足を撃って背負っていたバックパックから取り出した手錠を掛ける。



「こちらガルム1、島北部にて地下施設を発見。用途は不明ですが指揮官と思しき人物を捕縛しました」



オリバーが司令部への報告をしている横で、なまえは先程撃った男の足に応急処置をする。死にはしないだろうが、このまま出血が続けば尋問にも支障が出るからだ。



「なんだ、自分で撃っておいて手当てをするのか」



口を開く男に返事をする義理もないので無視する。ああ、慶次はサボらずにやっているだろうか、と思案しながら血止めをしていると、無視されたのが癇に障ったのか、男が声を荒げてくる。



「お前たち、ミスリルの人間だな!?そうだろう、おい小娘!」


(よく喋る男だ)



こんなのが上官だったとは、交戦したばかりの米軍歩兵に少し同情する。男は黙る気配を見せず、撃たれていない方の足でなまえに攻撃しようとしてくる。オリバーの通信はまだ続いていた。



「少し黙れ、そっちの足も使い物にならなくするぞ」
「はっ!やってみやがれクソガキ」



にやりと下卑た笑みを浮かべる男。なまえは腰のホルスターからすっと抜いたグロックの引き金を引いて躊躇無く男のふくらはぎに当てて発砲。

ガウンッ!!


クソだのなんだのと悪態を吐きながら呻く男を、拳銃を仕舞いながら見下ろす。


(…仕事が増えた)


自分でやったことに溜め息を吐いて、撃ったばかりの足にも血止めを施す。その作業を終えたところで仰ぎ見たオリバーは少し顔を歪めたが何も言わなかった。


「指示は?」
「こいつを連れて帰還だ。この施設は改めて調査が入るだろう」
「了解」











『ガルム1より各位、荷物の移送が終了したらしい。これよりルート360にて撤退する』
『『了解』』


慶次によって無事に保護されていたM9に搭乗し直し、“ダナン”に帰還した。











・気密チェンバー…対水中用の気密室
・ヴェトロニクス…電子兵装のこと
・FCS…火器管制システムのこと
・サスペンドモード→ミリタリーモード…消費電力を抑えた待機状態→戦闘を行うために制限を解除した状態
・AI“リック”…なまえの乗るM9に搭載された人工知能“リチャード”(名前や声質の設定変更もできるが、なまえはデフォルトのままで使用している)、愛称の“リック”で呼ぶ


ドンパチ、伝わってますか?たぶん私だけが楽しいターン…笑


09/09/29


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