イデアコンフュージョン
「やっぱイイ反応だねぇ?」
「…と、咄嗟のことで、」
「後ろ向いてしゃがんでろって言われても、普通あのスピードじゃ反応もできねーってのになぁ?」
「う、」
「うむ、もの凄い速さと身のこなしでござった!」
「むぅ…」
佐助と元親はなまえに対する疑惑を深めているのか、探るような物言い。幸村は単に関心したように頷いているだけだが、なんとも居心地が悪くなり教室へと向かう足を速める。垂れてくる冷や汗を拭うなまえは幸村と教室の前で別れ、席に着いた。美保も既に席に着いていたようで、隣の席の女子と談笑している。さっきのショックも収まったようだ、となまえは心の中で安堵の息を吐いた。
「それにしてもな、なまえ」
また何か言われるのか。俯いていたなまえは少し沈んだ気分ではあったが、元親の声に顔を上げないわけにもいかず、ゆっくりと視線を合わせる。
「あんまり暴れるとケガするだろうが。膝、擦りむいてんじゃねぇか」
(…は?)
思わぬ一言に口が開きっぱなしになる。
なまえの生活の大半を占めている“任務”。任務ではこれくらい、ケガの内にも入らないのだ。
「これくらい、」
「小さな傷が怖ぇーんだって言ったのはなまえだぜ?」
ニヤリと笑う元親に、なまえは反論する。
「先日のケガのことか。あれは列記とした切り傷だっただろう」
「じゃあこれも列記とした擦り傷じゃねぇのか」
「な、これは、出血もないし」
「俺の傷だってほとんど出てなかった」
「む…わかった、これは“ケガ”だな。認めよう、だが大丈夫だ。問題ない」
「そーいうと思ったぜ」
楽しそうな笑みを崩さないまま、元親のポケットから取り出された絆創膏。ぺりぺりと紙を剥がされ、なまえの剥き出しの膝小僧に貼り付けられた。
「こんなもんか?」
「ぷ、かわいらしーじゃんソレ」
あははと笑う佐助に指を指される。よく見ると黄色い絆創膏にはひよこの絵がプリントされていた。
「駅で配っててよぉ、なんで俺にまでくれたのか謎なんだけどな」
「元親ってそういうの断われないもんな、人がいいっつーかさぁ」
談笑する二人は、膝に貼られた絆創膏を見つめて固まっているなまえに気付かなかった。
3時限目の授業、終業を告げるチャイムが鳴るまであと5分。校門の前でしばらく停車、そして発進したライトバンが1台。慶次の乗るミスリルの車が到着を知らせに来たようだ。この後予定通りに裏門で合流し、装備等をチェックをしてからポイントD4に向かわなければ。
(…しかし仮病か。腹が痛いとでも言えばいいのだろうか、うーん。まさかこの膝の擦り傷で早退するわけにもいかないしな)
しばらく悩んでいると、程無くして授業は終了。教科書をカバンにしまっていると、前の席から「うわ」と佐助の声。
「なまえちゃん考え事?今すっごい難しい顔してるけど」
「ああ…実は仮病を使わなければならない事態なんだ」
「へ?仮病って、何か用事?」
こくりと一つ頷いて肯定を示す。それを見た佐助は嫌に綺麗な笑みを浮かべていた。
「どうしたらいいか、」
「俺様が上手く言っといてあげようか?」
(佐助はあたしにとって酷く魅力的なことを言っている気がする)
「いいのか?」
「いいよー、なまえちゃんの為だし!あ、でも」
「…でも?」
「貸し一つね」
さっきよりもずっといい笑顔の佐助を見てなまえの顔は引き攣る一方だ。
「うーむ」
「ん、どした?」
任務の度に仮病を使って、こうして佐助に借りを作るというのはすごく…危険な気がする。と、慶次と合流した車内で思案するなまえ。
「仮病とは難しいものだな」
「何言ってんのー?難しい任務じゃないんだから深く考えずにやればいいだろ?」
「これならテロリストと向き合っている方が精神的に楽な気がする」
「は??」
そこから指定ポイントに到着して基地から迎えのヘリが来る。ヘリの中で実行中の作戦内容を把握、あたしたちはもしもの時の保険だったようだ。待機中、TDDから連絡があり、ほんの数時間で任務は終了。
大佐の言うとおり、なまえたちのチームは待機で終わり。解散していいとのことだったので乗ってきたライトバンでセーフハウスに戻った。
「拍子抜けだよなあ」
「…昨日ボヤいていたのはどこの誰だ、慶次」
「細かいことは気にすんなよ!それよりなまえの方こそわざわざ早退したってのにな」
「こっちが本業だ、問題ない」
「…そーかい」
「そうだ」
(もっと楽しんで欲しいんだけどねぇ、俺としては)
ひよこの絆創膏、アニキは似合うと思うんですよ。お人よしアニキ!そして腹黒い佐助と保護者な慶次でした。
09/09/15
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