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ラジアンアクシデント







翌日、用意していた装備と武器・弾薬の類を慶次に任せ、午前中は通常通り授業に出ることにした。一二○○時なら3時限目までは受けられる。あとは仮病でも使って抜け出すことになるが。


今日の授業は何だったか…カバンには教科書やノートを詰めていく。作戦内容はすぐに覚えられるのに、時間割りというものにはまだ慣れないのか、頭になかなか入ってこない。












校門を抜けたところにある駐輪場、毎朝たくさんの生徒で溢れている場所。この高校は、近辺では珍しく自転車通学が許可されているのだ。そしてこの点が生徒たちに人気な理由でもあるらしい。その駐輪場から出てくる、見知った二人組。



「おはよーなまえちゃん」
「おはようございまする!」
「おはよう」


(幸村は朝から元気だな、よくもこんなに大きな声が出るものだ)


「昨日の話、旦那にもしてよかったんだよね?」
「もちろん、いずれ話すつもりだったから問題ない。むしろ助かった、かな」


佐助のことだ、あたしが自分で話すよりも上手く幸村に伝えてくれたはずだから。そう言うと、少しだけ照れて笑う。



「俺も勉強会には呼んでくだされ!テスト前ならば部活も休みでござろう」
「…あたしの部屋でするのは決定なのか?」
「まぁまぁいいじゃん、元親もなまえちゃんちでやればやる気出すだろうし?」
「興味本位の囮、というわけか。あたしは」
「うーん、囮っていうか、エサっていう点では間違ってないかも」
「なんと…なまえ殿はエサでござったか!ということは元親殿に食われるのでは!?」
「ちょ、縁起でもないこと言わないでよ旦那ぁ」
「あたしはすんなり食われてやるつもりはない、安心しろ。一矢報いるくらいの抵抗はできる」
「はい、なまえちゃんもそこ論点違うからねー。って元親?」



延々と会話をしながら教室に向かっていたあたしたちの後ろ、渦中の元親を発見する。いつもながら、朝の表情は優れないな…。人のことは言えないが。



「元親殿がかような時間に登校とは珍しい…!!」
「ああ゛ー、なんか目ぇ覚めた…」
「うわ。今日変なもの降ってくんじゃないの?」
「変なもの?」
「そ!こうやって普段は遅刻ギリギリの元親みたいなやつが、早い時間に登校っていうイレギュラーなことが起こると、晴れてんのに『雨』とか『雪』とか、あとは『槍が降る』ってよく言うんだよ」


日本の慣用句か。槍が降る、ならたしか…フランス語で「土砂降り」のことだった気がするが。


「ふむ…槍か。手榴弾よりはマシだな」
「手榴弾って…確かにね」



槍ならば避ければ済む。しかし手榴弾ではそうはいかない。爆発した手榴弾の内部にある金属片は、平地で1〜2m程度の範囲内で被弾するように設計されている。数にもよるが、これが雨のように降ってくればまず逃げ場はない。





「あ、田中さんだ」



佐助の言葉に視線を向けると、そこはいつの間にか教室のある三階の廊下。朝特有の眩しさが差し込むその先に、確かに美保ちゃんの背中が見える。

今日は教室に着くまでによく人に会うものだ、と偶然の連続に感心していると、左側に広がる窓の外に小さな影を捉えた。瞬間、嫌な予感がして佐助の制服の袖を小さく引いた。



「後ろを向いて姿勢を低くしておけ」



一緒に歩いていた全員に聞こえるようにそう言ってあたしは走る。

(さっきの話ではないが…まさか本物の手榴弾?)

小さな影はどんどん窓に迫っていて、着地点に美保ちゃんの姿。

今にも窓ガラスを突き破ろうとする影。


あたしは美保ちゃんを呼びながら飛びついて頭を庇うように抱きついた。振り返りかけた体に体当たりのような衝撃。美保ちゃんの体は浮いて、あたしもろとも床へ倒れこんだ。美保ちゃんが床に体を打ち付けないように庇いながら、自身の肩で受身を取って着地。

直後、ガシャン!という大きな音。

手に持っていたカバンで頭部を守る。

窓ガラスが砕け散り、次の瞬間の爆音に身構えた。





ドンっ!トン、トン、コロコロ




…?



ボール?


「び、びっくりしたぁーって…なまえちゃん?」
「すま…ごめん、立てる?」
「うん、ありがと!うわ、野球ボール?」
「みたいだ」
「なまえちゃんが来てくれなかったら…あたしに…?」


あたしの予想は外れて、飛んで来た影は手榴弾ではなく野球ボール。爆発の心配は杞憂に終わったわけだが、美保ちゃんはボールが当たった自分を想像したのか、少し顔色が悪かった。


「ありがとね、なまえちゃん」


潤んだ瞳で見上げてくる美保ちゃん、余程怖かったんだろう。泣いている女の子の慰め方なんてわからないから、子どもの頃にしてもらったように頭をゆるゆると撫でてみる。


「大丈夫、もう大丈夫」




「大丈夫でござるか!?」


駆け寄ってくる幸村、後に佐助と元親も続いている。美保ちゃんと一緒に倒れ込んだときに見えた佐助たちは後ろを向いてもいなければ姿勢も低くしていなかった…呆気に取られたようにこちらを見るばかりだったのだ。

目の前で起こった事実をいち早く飲み込んだのは幸村だったらしい。


「問題ない、あたしは…」
「あ、あたしも大丈夫!なまえちゃんが庇ってくれたし」
「いきなりボールとは…気付かずに申し訳ござらん」
「幸村の位置からは死角だった。無理もない」
「うむ…」


しょんぼりとする幸村を見て昨日の慶次を思い出した。慶次同様、幸村も犬属性だな。


「…元親が早起きなんてするからぁ」
「俺のせいかよ!?」
「元親殿にはそのような力が!?」
「ねーよバカ!」












アクション難しい…


09/09/13


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