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カフェロワイヤル









「じゃあ一人暮らしじゃないの?」
「あー、兄代わりの人と暮らしている」





昼休みのことがあってから、話せることだけでもいいから聞きたいという佐助と元親に引っ張られて学校を出た。ここは学校からほど近いコーヒーショップ。ちなみに幸村は部活でここにはいない。「なまえ殿の話、俺も聞きたいのだが…オヤカタサマに稽古をつけていただく約束があるのだ」と言っていた。“オヤカタサマ”とは何だろうか?あたしには漢字変換もわからないが、何やら重要な任務があるらしい。



父親が殉職して、同じ地区に長く暮らしていたボランティアの日本人に引き取られたことにした。この話は作り話だが、セーフハウスに慶次も出入りする以上は何かしらの関係を持たせなくてはならない。



「毎日帰ってくるわけではないが」

「「今日は!?」」

「…なんだ二人して…。今日はもう帰っている頃だと思う」




時計を確認すれば、時刻はもうすぐ一七〇〇時。慶次は別の任務で基地へ戻っていたが、今日はセーフハウスに帰ってくるという話だった。


どことなく肩を落としたように見える二人を尻目に、手にしたアイスコーヒーをストローでずずっと流し込んだ。



「遊びに行こうと思ったのになぁ」
「あたしの部屋にか?」
「うん。一人暮らしって言ったら勉強会の会場にもなるしさ」

佐助の横ではうんうんと頷いている元親。

「勉強会?」
「なまえちゃんはやったことないだろうね。テスト前にみんなで集まって、得意な教科を教え合うんだ」
「まぁ大体のことは佐助が教えてくれるからな!なまえも苦手な教科は佐助に聞けば一発だぜ」
「なまえちゃんになら手取り足取り、丁寧にじっくり教えてあげるよ」
「勉強とは手取り足取り教えるものではないだろう、普通でいい」
「あはー、冗談冗談」




それから二人のことに話題は移る。

佐助は幼い頃に両親を亡くして幸村の家に預けられ、真田家の援助の下、高校入学と共に幸村との二人暮しを始めたのだそうだ。家賃を払ってもらっているため、その他の生活費は自分で稼ごうとアルバイトをしている。まったく家事の出来ない幸村のお世話係も兼ねているとか。


(アルバイトと家事をこなしながら成績はトップクラスで身体能力も高い、相当の努力があるのだろうな)


元親の家は美容室で、家業の手伝いをしながら将来の勉強をしているらしい。既に客の洗髪やマッサージ、髪のアレンジなどを実際にやっているとか。部活は行ける日だけ、試合の近い部活などを選んで出ている。試合の多い土日はダブルブッキング的なこともあるそうだ。


(将来は家業を継ぐ、だから英語の成績は関係ないということか。それにしても…試合に呼ばれるとはどの部活でもレギュラークラスの実力、か)




「ちなみに旦那は剣道部ね。さっき言ってた“お館様”ってのは顧問の武田先生のこと!道場持ってて、旦那のいる剣道部も使わせてもらうんだって」
「道場。演習場のようなものか?」
「まぁニュアンス的にはそんな感じ」


演習場なら基地にもある。ただし、ミスリル基地内の演習場は盆地に台地、密林地帯が広がった兵器での演習を目的としただだっ広い土地。最新鋭の兵器の射撃テスト等にも使われ、通常訓練はここで行われる。


「幸村は強いんだろうな」
「超高校級ではあるね。旦那の相手が出来る高校生なんてそういないよ」
「ふむ…」


剣道というからには刀身のある武器を使った試合。あたしは剣もある程度なら使えるが…やはり敵わないだろうか。“強い”と聞くと手合わせしてみたくなるな。


「幸村の試合、見てみたいな」
「え。興味あんの?」
「あぁ(できれば手合わせ願いたいけど言わない方がいいか…)」
「なまえ…まさか幸村のやつに惚れたのか?」
「いやぁそりゃないでしょチカちゃん!」
「惚れた?何故そうなる」
「だ、だよな!」


今度は二人して笑う。肩を落としてみたり笑ってみたり忙しいな二人とも。



ヴヴヴ、ヴヴヴ



ポケットに入れていた携帯が着信を告げている。折りたたみ式のそれをパカリと開くと液晶には見知った名前が表示されていた。


「ちょっと席を外す」


断わってから店の出入り口付近まで歩いてから電話に出る。


「こちら…間違えた。もしもし」
「ぷっ!今コールサイン言いそうになったろ」
「…用件は?」
「いや、今戻ったよ。つーか何で家にいないの?」
「友人と寄り道していた」
「へぇ!そりゃあよかった!けどさ、早めに帰ってきてくんね?」
「何故だ」
「腹減った!何か買ってきて!」
「…了解。20分で向かう」
「よろしくー」


任務帰りで疲れているのだろう。同僚の疲れた声に少し同情して、二人の待つテーブルへ向かう。


「すまない、用事ができてしまった」

ソファーに置いていたカバンに手を伸ばす。残っていたアイスコーヒーを飲み干して、財布から500円玉を取り出しテーブルへ。

「ちょ、なまえちゃん…あ!」
「?」
「ダチに謝るときは“ごめん”!」
「…ご、ごめん」
「よし。じゃあ手、出して?」
「手、」


言葉遣いの修正、すっかり忘れていた。佐助はこうして少しずつあたしの口調を矯正しようとするのだ。

そして言われたとおりに右手を出すと、そこにはあたしの出した500円玉。


「ここは俺様のおごり!…ってまぁ誘ったの俺だし」
「いや、」
「こういうときは素直に?」
「…ありがとう」


満足そうに笑う佐助とにやにやと笑う元親を見遣ると、踵を返してセーフハウスへと向かった。

…その前にコンビニだ。










こうして日々、なまえちゃんの口調(だけ)は普通の女の子に近づいていくといい。笑

・一七〇〇時…読みにくいですが軍隊風ってことでご勘弁ください↓

09/09/05


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