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フィジカルストレングス1











「身体測定?」
「そう!着替えて、まずは体育館だよ」


先日、昼食を共にしたクラスの女子グループの一人である田中美保ちゃん(“美保ちゃん”と呼べとほぼ強制的に言われたが…あれ、なんか前も同じようなことがあった気がする)があたしを引っ張って更衣室へ向かおうとする。


道すがら、美保ちゃんは身体測定がどんなものかを教えてくれる。




「身体測定っていうのは、まず身長・体重・座高とか視力なんかも測るの。そんで、50m走とか1000m持久走とか、握力・反復横飛び・上体おこしとかで筋力なんかも測るんだよ」
「…何の意味があるんだ?」
「んー、どれだけ成長しましたよってのがわかるとか?まあ走ったり跳んだりするのはちょっと違うかもだけど」


成長度合いを測る、ということは比較するための資料があるのか。あたしは…あるんだろうか?あたしが見た偽装書類の中には無かったように思う。


「意味なんて考えなくていいじゃん!授業ナシで、一日かけてやってくれるんだしさ。なまえちゃんは運動得意?」
「運動…体は鍛えてる」
「確かに細くて締まってるもんね!こないだ体操服に着替えるとこ見たよー」
「そ、そうかな?」


羨ましい!と言ってくれる美保ちゃん。しかしあたしは内心で自分の言葉遣いを気にかけることで精一杯だった。佐助たちと話す時よりも、女子たちと話す時の方が口調の堅さが顕著なので気をつけているつもりだが…上手く話せているかに気を取られる。くだけて、はないかもしれないが堅さは抑えられていると思いたい。










体育館に集まり、簡単な説明を受けて各教室へ。廊下にずらりと並んだ列にあたしのクラスも加わった。転入生であるあたしはクラスの最後尾で順番を待ち、身長・体重・座高、視力や聴力に至るまでをそれぞれ計測する。


そこは問題なくクリア。体育館に戻ると、次はグラウンドに移動するように言われぞろぞろと向かった先には佐助や元親の姿があった。クラスの男子が持久走の準備をしているところらしい。途中、美保ちゃんは「ちょっとトイレ…先に行ってて!」とトイレに向かった。







「お、なまえちゃん発見!体操服なの初めて見るけど…またなんというか。目に毒だねぇ」
「まったくだな!幸村には見つからねぇようにしろよ」
「は、毒?幸村に見つかるとなにか不味いのか?」
「不味いっていうかさ、うん。まぁいいや。なまえちゃんに言っても“よくわからん”で終わると思うから」
「そうか?なら気にしないでおこう」
「佐助、そろそろ始まるぜ」
「はいよ!んじゃなまえちゃん、また後でー」
「わかった」


二人と話していたあたしの元に美保ちゃんが戻ってくる。何故か目をキラキラさせて、期待に満ちた目で持久走のスタートラインを見ていた。





「佐助くんも元親くんも早いんだよ〜、かっこいいよね!」
「ふむ…」


確かに。明らかに元親は運動全般得意そうだし、佐助も器用になんでもこなすタイプだ。持久走というのは精神的な強さも問うものだろう、見てみる価値もあると思える。美保ちゃんのまなざしも頷けるというものだ。


女子は50m走が先らしく、グラウンドの端に二列に整列して座って待機している。今日も天気は良好、日差しは強いが風も吹いている、春らしい天気だ。と空を見ていると、パン!というピストルの音が鳴り響く。




そんな…殺気はなかったはずだ!反射的に右手が腰のいつもならホルスターのある位置に行ったが当然のように銃はない。教室にあるカバンの中だ。この場で無差別に銃を乱射されれば、クラスメイトたちはまず被害を…?







…なるほど。




ただ単にスタートの合図で使用されるピストルだったらしい。突然の銃声にぴくりと反応してしまった体は、列の最後尾だったおかげで誰にも見られていなかったようで一安心。副長殿の言うように、ここでは過度の警戒心は不要なようだと身をもって知る。




先ほどの合図で持久走のスタートを切った男子は2クラス合同らしく、30人弱が同時に走り出していた。美保ちゃんや周りの女子の話では、先頭集団の5・6人は佐助を除いた全員が運動部だと言う。元親は助っ人部?とかいう、さまざまな部活動から助っ人としての要請が来て初めて活動する部に所属しているそうで、日頃からあちこちの部活に顔を出しているだけのことはある。佐助は家計のためにアルバイトをしなければならないらしく、部活動には所属していないと言っていたのに…運動もできるのか。



「ほぅ…(成績がトップクラスだと聞いたから頭脳派かと思っていた)」



運動部の生徒をものともせず、トップは元親、次いで佐助のフィニッシュだった。記録も相当なものだろう。普段はあまり騒がないクラスの女子ですら羨望のまなざしを向けている。


と思っていたら、50m走の順番がすぐそこまで迫っていた。こんな競技はやったことがないし、前の生徒を見てやり方を学ばなくては、と視線を前に戻して集中した。



見よう見まねでスタート位置に付き、合図と共にスタートする。低い態勢から徐々に体を起こしてひたすら腿を上げて前に進むと、あっという間にゴールだった。



「わ…なまえちゃ、早っ!」
「えーどれどれ!?」
「きゃ、すごーい!」



ストップウォッチを持っていた計測係の体育教師は、手元のタイムを見つめて固まってしまった。…何かやらかしたか。かと思えば、わらわらとタイムを見に集まったクラスメイトたちを掻き分けてあたしの両肩を掴んだ体育教師。



「みょうじさん!陸上部に来て!」
「はぁ、なぜでしょうか?」
「こんなタイムを出せるのにもったいないわ…!」
「評価はありがたいのですが、あたしは部活動へ入るつもりはありません」
「そう…もっと上が目指せるのに残念ね」
「申し訳ありません」


そう謝罪して苦笑した。あたしはいつ任務が入るかわからない身であり、またそのためにいつ退学するとも知れない身だ。部活動というのも気にはなるが、入部は断念するべきだろう。





「なまえちゃん早すぎ…!風みたいだったよー」
「風?風になれたらすごいな。絶好のポイントから狙撃されても逃げられるのでは…」
「ソゲキ?何言ってるのなまえちゃん」
「いや!何でもない」











なまえの50m走タイム、6″10
元親の1500m持久走タイム、4′04″
佐助の1500m持久走タイム、4′06″
…という裏設定があったりします。
相当早いコたちです。



09/08/31




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あきゅろす。
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