無意識ディスタンス(片倉小十郎)
政宗様が政務に取り掛かっている間に部屋の外に出ると、西の空に重い雲が流れ込んで来ているのを見つけた。夜には雨が降り始めるだろうかと思案して、ふと畑のことを思い出す。そういえばここ数日手入れをする暇が無く皆に任せっきりだったな。今の内に少し様子を見ておこうと畑へ向かう。
「あ、小十郎さま!」
「あぁ、なまえか」
世話をしている畑に着いてみればその真ん中に小さな背中が見えた。しゃがみ込んで雑草抜きをしているようで、近づいて声を掛けるとこちらを振り返ったのはなまえだった。俺も並んで作業に取り掛かる。
「お暇が出来たのですか?」
「政宗様がようやく集中なされたようなのでな」
「あはは、政宗さまったらまた遊んでらしたのですか?」
「まったく、誰に吹き込まれたんだか知らないが…困ったものだ」
なまえは政宗様の幼少の頃から働いている女中で、年若いながらによく尽くしてくれる器量のいい娘だ。政宗様にも大層気に入られていて、しかも年が近いなまえは政宗様の遊び相手になることも多かった。というか政宗様がなまえで遊んでいた、とも言うかもしれない。いや、そうとしか言えないというのはなまえには黙っておく。
「でもおかしいですね」
「何がだ?」
「小十郎さま、とても嬉しそうにしてらっしゃいますよ」
…そうだろうか。そう言いながら俺よりも遙かに嬉しそうに笑っているなまえが目の前に居るというのは、何だかな。
しかし嬉しくは、ある。政宗様には塞ぎ込んでいた時代も少なからずあったからだ。政宗様への好影響の原因、それをなまえが握っていることにこいつはきっと気付いていないのだろう。
にこにこと、何が楽しいのか知らないがずっと笑って作業を続けるなまえを見ていると、何やら口が動き出した。耳に届いたのは…奇妙な歌?
「野菜野菜、やや野菜野菜♪」
「おい待てなまえ、それは何の歌だ」
「野菜の歌です!」
「…そのまんまだな」
…一定の調子で律動的に発せられる言葉。何かの呪文のようにも聞こえるが、こんなものは聞いたことがない。しかも野菜だと?こいつの思考回路は一体どうなっているのか…一緒に居た政宗様が変に育ってしまうのも頷けるというものだな。
そんなことを思いながら未だ楽しげに雑草を抜くなまえを見る。ふぅ、と一息吐いて汗を拭った拍子に白い頬には土が付いてしまったようだ。まったく。政宗様といいなまえといい、手のかかる。
「なまえ、ちょっとこっち向け」
ずずいと近づいて自分の首に掛かった手拭いで土を拭ってやる。されるがままになっているなまえの頬が白さを取り戻したのを確認、よし。
「わわ、ありがとうございます」
「あぁ。ん?どうした?」
なまえの白かった頬は少しだけ紅がさしていた。力任せに強く擦りすぎただろうか?と不安になったが、俺が拭ったのは左頬。右頬まで赤くなることはないと思うんだが…。
「なんでも、ないです」
「そうか?…お、そろそろ降りそうだな。戻るか」
「は、はい、そうですね」
いつもは話が途切れることなどないのに、今日はそれっきり特に会話も弾まずに自室へ戻った。俺は何かしただろうか?と思案していると、外ではざぁざぁという雨音。間一髪、降られる前に戻れてよかったと胸を撫で下ろした頃、なまえの様子が変だったことは気のせいかもしれないと思うことにした。
09/07/26
(小十郎さまの鈍感!)
締めがやっつけgdgdでごめんなさい。あの呪文は2525ネタです、わかる方お友達になってください!
今日ウチに野菜がたくさん届いたよ記念。笑
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