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触れる指先(伊達政宗)








「暑ィ」



何度も繰り返されるその言葉とは裏腹に握られたままの左手。この気温と政宗さまの体温によって私の体感温度が増しているのだけど、まさか国主である政宗さまにこのような本音を晒せるわけもなく。私はこの状況を受け入れる他に術はないのです。


はぁ。と熱い吐息を漏らした政宗さまは幾分冷たいであろう自室の畳の上でごろりと大の字になられ、私の左手は解放されることも叶わず温度を共有するばかり。


「政宗さま、」
「答えはNo!だ」
「…まだ何も申しておりませぬ」
「離せってんだろ?」


ぎろりと鋭い視線を投げられれば、私は蛇に睨まれた蛙のごとく一切の動きを禁じられたかのように臆してしまいます。
奥州を統べる名高き独眼竜。その所以たる唯一の眼には様々な感情を浮かべていらっしゃる。


そして口角を上げて笑う様は、成長するにつれて段々とお父上で在らせられる輝宗さまに瓜二つの様相を呈しております。
その口から発せられるお声によって紡がれる言葉の端々に逆らいようのない力を感じるのは、やはり政宗さまが生まれ持った才によるもの。私など、名前を呼ばれただけで言いようのない感情が溢れて参ります。


一国の主となられた政宗さまは、私の左手に繋がれた手の指の先まで、誰のものでもなく国のもの。国の宝。本来ならば私のような者が触れられるものではないというのに。この時ばかりは私の物になったような、そのような錯覚に陥ると同時にとても愛しく思うのです。





「なまえ」
「はい、政宗さま」
「お前は変わらずにいろ、俺の傍にだ」
「…仰せのままに」



目を伏せて頭を垂れる。政宗さまによって捕らえられたままの私の左手は未だ熱を湛えて動けない。それでも政宗さまに逆らうことなどできぬ私は肘を付き、ゆっくりと息を吐くのです。昇り詰める心の内を抑えるように。





「Are you ready?」





政宗さまの手にもぎゅうっと力が込められ、私もまた、来るべき衝撃に備えて身構える。絡まる視線。またも熱い吐息で呼吸を整える政宗さまを見て、私の覚悟も決まるのです。














「Go!」



だん!という音と衝撃が響く。繋がれていた左手は倒れ、政宗さまの手の甲はべったりと床に。



「Shit、なんでこの俺が勝てねぇんだ…!」
「おほほほ、政宗さまは変に力み過ぎなのでございます」



何度挑まれても同じこと。力任せで要領を得ない政宗さまのやり方では私に勝つことはできませぬ。と、このなまえ、何度も申したではございませんか。



「政宗さまももっと片倉さまと畑仕事をされてはいかがですか」


剣を振るうための力と腕相撲で勝つための力はまったく別物のようで、片倉さまの畑仕事をお手伝いさせていただいている私は後者が鍛えられたようなのです。もちろん言うまでもない話ではありますが、私は剣を持ち戦場に出る事など到底できませぬもの。


「…小十郎がうるせえんだよ、動機が不純だと」
「あら。それではなまえが負けまする日はまだ先のようですね」
「チッ、政務さえなけりゃあな!」


あ゛ー、暑ィ。

悔しそうなお顔の政宗さまは、力んだ所為でまた暑くなられたようです。そろそろ政務にもどらなければ、と促すと数刻振りに私の左手は解放され政宗さまも体を起こして文机に向かわれました。




今日もここ、奥州は平和でございます。










09/07/22

(なまえのやつ。あの細腕のどこにあんな力が眠ってやがるんだ…ん?そういや小十郎とはまだ勝負させてねぇ…くっ、面白いpartyになりそうだぜ)


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