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センチメンタリズム(真田幸村)

※アウトオブ眼中と同じ設定です、未読の方は先にそちらからどうぞ!






…カンカンカンカン、コツコツコツコツコツ。

ガンガン!


「ゆーきーむーらーくーん」
「なっ…なまえ先輩!?」


突如大きな音を出して叩かれたのは俺の部屋のドア。ドアスコープの向こうに見えたその人は、高校からの先輩で大学でもお世話になったなまえ先輩だった。




何の連絡も無くいきなり部屋を訪ねてくることは以前にも何度かあったが、そういうときは決まって酔っ払っている。今回も例に漏れず…だということは、このドアを開けて見ればわかる。


ガチャリと開けたドアの向こう、しっかりと立ってはいるがふわりとアルコール臭を纏っているのだ。


「今日はどうされたのですか?」
「えー?幸村くんに会いに来たんですよー」


そして呂律は回るものの、語尾を延ばしてだらしなくしゃべるのが酔っているときのなまえ先輩の特徴でもある。いつも通りといえばいつも通り、そして俺の対応もいつも通りにしなくてはならない。






確かな用事があるわけでもなくやってくるなまえ先輩は、にっこりと笑って俺に会いに来たと言う。これも毎度のことではあるが、その度に俺の心臓は人知れず、どくりと一瞬跳ねるのだ。






靴を脱いで俺の横を通り過ぎ、定位置になっている壁際の床に座り込んだなまえ先輩。そんな彼女に俺は何も言わずに座布団と冷たいお茶を差し出した。


「ありがとー」


器用に片手で座布団を足の下に敷いて、お茶の入ったコップを受け取る。ごくりと上下する喉をじっと見つめてしまうのも、もう何度目だろうか。


「ぷはぁー、うまい!」
「なまえ先輩、ただの麦茶を酒のように…」
「冷たくておいしいねー」
「少しは話を聞いてくだされ」


言いながら、俺は携帯を操作して佐助に送るためのメールを打ち始めた。


なまえ先輩が一人で家に来たときは、毎回こうして佐助を呼び出す。それはもう何時でも関係なく。昼だろうが夜だろうが深夜だろうが朝方だろうが、酔ったなまえ先輩と二人きりになる時間は少ない方がいい。俺の精神衛生上よろしくないからだ。


「今日も佐助来るのー?」
「そうでござる!元々来る予定だったのだが…遅いのでメールを」
「ふーん?」
「修論用のレポートをまとめておかねばなりませんので、佐助に相手をしてもら」
「幸村くん!なーにぃー?かわいいかわいいなまえ先輩の相手ができないっての!?」
「ちょ、落ち着いてくだされなまえ先輩!こんな時間に暴れられては近所迷惑…」
「幸村くんのバカでかい声よりマシでしょー!」


ぺたりと座り込んだなまえ先輩は俺に体当たりをかます勢いで携帯を奪い取りに来た。力ずくでそれを阻止するのは、俺にとって息をするように簡単なことで。でも同時に、なまえ先輩に触れることは時に息が出来なくなるほど難しいこと。


案の定、酔っ払っているなまえ先輩の体は熱く、握った手首からは火照りが自身に移ってくるような感覚。この細い体を今すぐにでも抱きしめてしまおうかという気さえ湧いてくるのだから困ったものだ。第三者がいなければ歯止めが利かないほど大きく育っているなまえ先輩への気持ち、暴走を防ぐためには、佐助を呼ばなくては。



「ねえまだ秋口だよ?修論の用意なんて、これからする時間いっぱいあるじゃない」
「しかし、」
「そんなのいいじゃん。ちょっとでいいから、あたしに付き合って」
「なまえ先輩…」



普段のなまえ先輩とは違う、ほんの少しだけ弱気に見えるなまえ先輩が俺の目の前にいた。



「なにかあったのでござるか?」



暴れるなまえ先輩を抑えるために握っていた手首を離すと、だらりと両腕を垂らして俯いてしまった。なんとなく手持ち無沙汰になって、なまえ先輩の肩に手を置いた。



「最近ね、人に言われて気付いたの…あたし、寂しいんだって。一人でも全然やっていけると思ってて、楽しいことだってあるし、たまに友達や仲間と飲んだりさ、そういうのがあれば辛いことだって乗り越えられる!とかね」



ふいに触れていたなまえ先輩の肩が小さく揺れて、俺の心臓がまた跳ねた。笑いすぎて泣くとき以外、俺はハル先輩の涙を見たことがないから。今にも泣き出しそうな顔を見たことはあっても、感動したときですら恥ずかしいからと人前では泣かないなまえ先輩の、特別ともいえる涙。それを俺の前で流しているのだろうか。



「でもやっぱり支えて欲しいな…幸村くんに」



やっぱり俺からはなまえ先輩の顔は見えなくて、泣いているのかどうかも定かではない。それでも支えて欲しいと、そうなまえ先輩が言うのなら俺は…。



「なまえ先輩、俺は…ずっとなまえ先輩の…先輩?」




意を決して口にしようとした言葉は、意識を飛ばしたなまえ先輩には届きそうもなかった。

見事にパタリと気を失うように眠ってしまったなまえ先輩。ベッドから毛布を引っ張ってきて掛けたとき、ちらりと見えた寝顔は穏やかなものだった。


けどこれではあまりにも悔しいので、こっそり頬に口付けたのは俺だけの秘密だ。













幸村の一人称、現パロでは「俺」が好きなんです←
あれ、報われる話が書きたかったんだけどな…この設定でラブラブカップルにしてあげるのは無理なのかorz 力量の問題か…。


10/03/13

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あきゅろす。
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