砂糖は溶けた(真田幸村)
“体育の時間と昼休みと部活の時だけは酷く元気だよね、幸村って”
とかよく言われるこの俺が、今こうして本来なら部活中である時間を教室で過ごしているのは先の言葉をさらりと言い放つクラスメイト兼俺の想い人、なまえの相談とやらを聞くためだった。
「あたし、好きな人がいるんだけどね、」
「ああ」
「…誰かわかる?」
気恥ずかしそうに尋ねるなまえ。俺が何も知らなければ、この質問に対して変に期待してしまっていたかもしれない。
でも俺はわかっているのだ。ずっとなまえを見てきたからこそ気付いてしまった、なまえの気持ちに。
「片倉先生だろう?」
「やっぱりバレてたかぁ」
バツが悪そうに、でも嬉しそうに笑う。名前を出しただけでここまで緩んだ笑顔を見せるとは、相当なものだ。今この場にいるのは俺なのに、なまえの側に居るのは俺なのに、なまえの頭の中も心の中も片倉先生が占めている。なんともおもしろくない。
「なまえはわかりやすいからな」
自分の心はなまえのそれと正反対に真っ黒に染まっていく。よくない感情に押し潰されそうになる、これは嫉妬。
表面上では笑っているが中身は見せられたものではないほど汚い感情が渦巻いているのだ。
「最近やっと笑って話してくれるようになったんだよ」
「そうか、あの片倉先生が…」
それも知っている。なまえの姿を無意識に追ってしまう俺のこの両の眼は自然、なまえの話し相手も視界に捉えてしまうのだから。なまえはよく笑うし、あんな風に笑い掛けられては先生と言えど頬は緩むだろう。
「先生、彼女いるのかなぁ。もうすぐクリスマスだし…プレゼントとかしたら迷惑かな…ね、どう思う?幸村」
「うむ…彼女の有無はわからぬが、生徒からのプレゼントをあの真面目な片倉先生が受け取るだろうか?」
「そうなんだよね、先生真面目すぎるんだよね…」
うーんと頭を抱えるハル。プレゼントなどやめておいた方がいい、とはっきり言えない俺の正直な気持ちは奥底に押し込んだ。
「慕っているのはなまえだけのように見えるぞ」
「…そうかもね」
「では一体何故、」
「一方通行な想いは持ってるだけでいけないことなの?」
対象が教師だからって、簡単に諦められないから今もこうして想ってるんだよ?
「幸村には、わかんないよ」
そう言って歪んでいくなまえの顔を想像する。
「諦めて俺にしておけばいい、俺は…なまえが好きだ」
想像の中のなまえの言葉が怖くて、俺は自分の気持ちに蓋をする。
「しかし渡してみなければ受け取ってもらえるものも受け取ってはもらえぬ」
「そ、そうだよね!」
俺の言葉に顔を明るくするなまえ、こうやって背中を押してくれる言葉を待っていたのだろう。なまえのためなら望む言葉だって掛けてやれる、それなのになまえをあんな綺麗な笑顔にするのは俺の役目ではない。
「ありがとう、幸村」
片倉先生を想う笑顔を見ては複雑な気持ちに駆られる俺の心の内など露知らず、なまえは先生の背中を追いかけ続けるのだ。
微黒幸村、報われない↓そしてまさかの小十郎VS幸村の図(水面下)
つーか幸村の幸せなお話がないんじゃないかこのサイト…!なんてこったい、今度は幸せにしてやんよ!←
09/12/15
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