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覚えてるよ(猿飛佐助)

※「覚えていますか」の続編、というか佐助視点と補足みたいなものです。「覚えていますか」未読の方はそちらを先に!既読の方、ようこそスクロールプリーズ!













夏特有の生暖かい空気が建物の向こう、日のあたる場所から流れてきた。見上げれば積乱雲がもくもくと、その白を主張しながらゆっくりとやってくるのが見える。やっぱ、外は暑いな。


「お久しぶりです、佐助さん」


会場に着いたものの、知人たちはまだ到着していない。じっとしているのも性に合わないので、ぶらりと外に出た俺の背中に掛けられた声は久しく聞いていなかった、あの子の声。驚きに、自然と見開いてしまう瞳を隠すように軽く笑って名前を呼ぶ。


「なまえちゃん、」









数年前に出会ったなまえちゃんは、大学に入学したばかり。バイト先で社員さんに「新人だよ」って紹介されたのが初めましてだった。人見知りをする性格みたいで、初めの頃は中々目も合わせてくれないくらいだった。その緊張した様子が見てらんなくて、早く慣れてくれればいいと話し掛け続けた結果、やっと見つけた小さな笑顔が印象的だった。


俺はと言えば、同じ職場に彼女がいて大学の授業はまぁ適当にこなして、学友と言う名の悪友たちと楽しくやって…と充実した日々を送っていた。心の余裕があったからこそ、なまえちゃんにも優しくできたのかもしれない。


一緒に飲みに行ったり遊びに行ったりするようになってから、俺となまえちゃんは意外と趣味が合うことに気付いた。同じものにハマる者同士の話は楽しくて尽きない。彼女との時間とはまた違った楽しみを見つけてしまったんだ。




しばらくして、彼女が看護士の資格を取るためにこの土地を離れようと思っていることを告げられた。大学の専攻は方向が違うため、卒業してからまた専門的な勉強をしたいのだ、と。半分同棲みたいな生活を送っていた俺は、ぼんやりとだけど、このまま彼女と結婚するんだろうと思っていた。それなのに、離れてしまう。離れても想う自信はあったけど、相手の気持ちを留め続けられる自信は正直無かった。








彼女の引越しから1年くらい経った頃、なまえちゃんが俺とほぼ同期の友人と付き合い始めたという話を聞いた。彼氏がいるんじゃこれまでみたいに遊ぶこともできなくなるなぁと、ちょっとした兄心みたいな寂しさがあった。そういう気持ちだけじゃないことには、気付かない振りをした。


なまえちゃんの彼氏になった友人は、相当なまえちゃんに惚れこんでいるらしい。話の端々から幸せそうな空気が垣間見える。元々いいヤツだと思ってたけど、付き合い始めてからの接し方を見ていると余計に思う。なまえちゃんもいいコだしお似合い…だよな。


なまえちゃんとの連絡が取りづらくなってから、シフトが一緒の時に少し話をする程度になってしまった。そんなに気を使う必要はないのかもしれないけど、性格だからしょうがない。なんとなく疎遠になる、っていうか。彼女と違って、近くにいるのに。


その彼女には数ヶ月に一度は会えていたけど、やっぱりどちらも寂しさを感じずにはいられない。以前より電話やメールでの小さな喧嘩も多くなった。長年付き合ってきたから、ここで別れることになっては彼女に悪いような気がした。でも、もうダメだろうと感じていたのは俺だけじゃなかった。


何度目かの彼女との逢瀬、別れようと切り出した俺の手を握って泣きながら笑った顔が思い出される。


地元へ戻った俺は、どこか吹っ切れた様子だったと後で友人に聞いた。そして、俺もちゃんと整理つけないと、となまえちゃんと別れたことを知らされた。しかもなまえちゃんはバイトを辞め、この地を離れたのだと。俺には、何も言わずにいなくなってしまった。店のみんなは知っていたのに、俺だけ知らなかった。




無くしてから気付く大事なもの。それが俺にとっては長年連れ添った彼女ではなかったことに少しだけ驚いた。ふっと消えてしまうかのようにいなくなったなまえちゃんのことを思い出しては胸が苦しくなる自分がいる。好きだったのか、なまえちゃんのことが。気付いてしまえば簡単なこと。心にしっくりとくる気持ちだった。そして会えないことに苛立つくせに、連絡すら思うように取れない。なまえちゃんにとっての俺は、旅立ちを告げる必要すらないと思われるただの先輩、程度なんだろうから。








それからまた数年。見知った名前の差出人と、まったく知らない名前の連名で、結婚式の招待状が届いた。見知った名前のあのコとは、なまえちゃんの高校からの友人で、同じ頃にバイト先で知り合った。


この式でなまえちゃんに会えるかもしれない、いや会えるだろう。会えなければそれまで。でももしも会えたら俺は。











「他のみんな、まだ来てないみたいだよ」
「そうですか、早く会いたいです」
「なまえちゃん、俺になんにも言わないで遠くに行っちゃうんだもんなー」
「あれ?言ってなかったですか?」
「うわ、ひでぇ!!」


大丈夫、普通に話せてる。何年も会えなかったなまえちゃんが今ここにいて、目の前にいて、俺としゃべってるのか。ちょっと変な感じだ。この暑さで蜃気楼でも見ているとかじゃないといいけど。


「…元気だった?」
「…いひゃいれふ」


顔に笑顔を貼り付けて、その存在を確認するようになまえちゃんの両側のほっぺたを摘んで引っ張る。柔らかい感触と俺のせいで変になった顔。うん、なんていうか、


「はは、変わってないなーなまえちゃんは」
「佐助さんこそ!…これから式に参列するんですよわかってますか?ほっぺた真っ赤になっちゃう、」
「大丈夫」


摘んでたのは少しの間だったのに、赤く染まってしまった頬。今度は労わるように右手でゆっくり触れる。


「ドレス、似合ってる。綺麗だよ」
「…そ、そういうのは新婦に言ってあげてください!」
「あはは、そりゃそうだ」


そういえば言ってなかったなって思って、初めて見た着飾ったなまえちゃんに正直に告げると、ごもっともな返答と照れた顔を見せてくれる。


「佐助さん、」
「んー?」

少し思案した様子のなまえちゃんが窺うように見てくるので、言いやすいようにと緩い返事を返す。

「佐助さんはまだ結婚しないんですか?」
「……」
「あ、もしかしてもうしてる、とか?」

…そっか、なまえちゃんは知らないんだっけ?俺が随分前に彼女と別れたこと。もちろんその後でなまえちゃんへの想いに気付いたことも。

「残念ながらまだ!そういやよく考えたら俺様、先越されちゃってんじゃん…はぁ」

大袈裟にため息を吐いてみせる。俺のキャラってこんなんで合ってるんだっけ、もう久しぶりすぎてわからなくなってきた。

「それどころか相手もいないっつーね、寂しいもんだよ」
「え…彼女、いないんですか?」
「いないいない、もう何年前の話だよ」


なまえちゃんがすごく意外そうな顔をしてあまりにも驚くもんだから、事の顛末を軽く話す。俺にとってはもう思い出になってるけど、ふと別れた彼女にとってもそうならいいと思った。


「あいつには悪いことしたなぁ」
「そ、ですか?」
「うん。そ、です。泣かせちゃったしさ、挙句俺も泣くハメになったっていうね。どうしようもないバカヤロウだったんだよ俺は」


そう、バカヤロウだった。彼女を縛って、自分も縛って。何もならないのに。そしてこの想いにだって、いなくなってからやっと気付いたんだから。


「だから、そのバカヤロウを卒業したいと思って。今日は覚悟決めてきました」


会えたら、今度こそ本当に大事な人に、生まれたこの大事な想いを。ちゃんと伝わるかなんてわからない。でも伝えないなんて選択肢はとうに捨ててきた。


「え?えぇ?なんの覚悟ですか、意味がわからないですよ」
「だろうねー。まぁいいから聞いてよ」


急に敬語になる俺、それに狼狽するなまえちゃん。情けないことに緊張してしまって、ふぅとひとつだけため息を吐いて心を落ち着かせたけど顔に集まった熱は取れなかった。聞いてよ、と言った手前ここでやっぱなんでもない、ってことにはできなくて。もう本当に、俺的には当たって砕けろ!くらいの気持ちで、ずっと秘めていた想いをなまえちゃんに告げたんだ。








「俺はなまえちゃんが好きだよ」











その後のなまえちゃんの反応がかわいいったらないんだよ!もう俺様メロメロっていうの?何年も抑えてた分の反動かな、めいっぱい表に出ようとする好きの気持ちが溢れて溢れてどうしようもなくなって、ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめて唇を寄せる。

あまりの猛アピールに照れたハルちゃんが、「ドレスが台無しになっちゃう!」って言葉と右ストレートを腹に食らったのはまた別のお話。









覚えてるよ(っつーか忘れられなかった、が正しいかな)



09/08/25

お粗末様でした、いやほんとに。



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