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しとしと(長曾我部元親)





「え、」


ゆらゆらと揺れる船上で特にすることもなく過ごしていた私。床に腰を下ろしてすぐに眠気に襲われ、誘われるままに意識は落ちる。そんな私の意識を引っ張り上げたのは小さく打つ雨音。目を開けた私の体を引っ張り上げたのは、

「元親」



小さく作られた窓から見える海に雫が落ちる。これを見越しての寄港だったのかと今更ながら気付いたけれど、考えを肯定してくれる相手はここにはいない。数名の見張り番を残してみんなは陸だ、そう思っていた。



「起きたか」


頷いた私に立ち上がるよう促してまだ握られたままだった腕を放す。宿を取ったという報告と共に歩き出す元親の背中を見ながらも私の足は動かない。まだ少し重い瞼をゆっくりと上下させて視線は窓の外。


「…どうしたよ、寝惚けてんのか?」
「ううん」
「腹も減ったし行くぜー」


頭を掻きながら歩く元親の後ろ、やっと私は歩き出した。甲板は雨で斑模様。雨が降り始めてからそう時間は経っていないみたい。

港の地に足を付けてもふらふらとよろける私。いつものように支えてくれる元親をじっと見る。


「なんだぁ?今日はえらく呆けてるじゃねーか」
「、そうかな?」


自覚はないけどいつも見ている元親が言うのだからそうなのかもしれない。これでも一日の大半を彼と過ごしているのだから。


「ねぇ元親、」
「あぁ?」
「蝶々、雨なのに飛んでるんだね」

しとしとと降る雨はたぶん蝶々の羽にだって例外なく落ちているはずなのに、なんてことないように飛び続ける蝶々が不思議だった。いつもは気にしないようなことが気になる。こういうの、なんていうんだっけ。



「そこに欲しいモンがあるから、だろ」


ぼぅ、と蝶々を見つめていた私の頭上から優しい響きで降ってきた元親の声。同時にすっと腕を引かれた先に見えたのは彼の胸。湿った空気と混ざって香る彼の匂いに目を閉じる。目に映る景色よりも今は元親を感じていたかった。

私の身体に回された逞しい腕はぎゅうぎゅうと力強い。それでも加減してくれているらしく、苦しくはなかった。

見上げればすぐそこに元親の顎が見えて、それに気付いたのか私を見下ろして柔らかく笑う。私はこの笑顔がたまらなく好きだと思う。この気持ちを素直に告げたら、今度は照れたように笑ってくれるだろうか。


「私もお腹すいた」
「よーし、飯だ飯だ」


開放されて一息、手を取って歩き出す。


雨の中でも蜜を求めて飛ぶ蝶々みたいに元親は私を求めてくれるのだと、知っていたけど改めて思い知らされる。想われているのに私の胸はぎゅうと狭くなって、もっともっと彼を好きになるのだ。





090711

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