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雪で真っ白ホワイトデー(氷月)
3月14日、その日はちょうど誠凛高校の後期受験があった。そのため在校生は3連休となり、部活動も休止となっていた。伊月はその休みを利用して東京を発ち、秋田にいる恋人の氷室の元へ来ていた。伊月が発った時間は18時を少し過ぎた辺りだというのに到着時刻は22時を過ぎており、改めて距離の遠さを思い知る。

氷室は伊月が来ることを直前まで知らず、新幹線が秋田に入ったとこでLINEで向かっている、と教えられたのである。そこからの氷室の行動は早かった。着替えをすぐに済まし、ルームメイトを他の部屋に泊まるように説得し、ポケットに小箱を入れて窓から出て駅へと向かった。この際、説得と言うよりも半分程脅しに近かったのは致し方ない、と氷室は開き直っている。愛しくてやまない恋人が自分に会いに来てくれるというその事実が、普段からアクティブな彼の行動をさらに加速させる要因となっているのは本人は気付いてない。そして残念ながら、そのルームメイトが泣きながら友人に泊めてと頼んでいることにも気付いていない。

そうして指定した駅の改札で待つこと5分、流れる人混みの中でも一際存在感のある漆黒の髪を持つ人物を氷室はすぐに見つけた。伊月も氷室を見つけるとふにゃりと微笑み、するすると人をうまく避けて駆け寄る。

「会いに来ちゃった、びっくりした?」

「Welcome,シュン!そりゃびっくりするに決まってるだろ?来るなら来るって教えてくれてもよかったじゃないか」

「辰也を驚かせたかったんだよ。ハッ…愛する人に会い、スルー!キタコレ!」

「俺も愛してるけど、シュンのことをスルーなんて出来ないよ」

「そういうことさらっと言うから辰也は…」

ダジャレを理解して貰えなかった悔しさと、さらりと愛してると言われた嬉しさと照れがごちゃ混ぜになって出たのはため息だった。さっきのを書き留めようと取り出していたネタ帳で顔の下半分を隠しているが、顔が赤くなったのは氷室にはお見通しだろう。

「ほら、時間も時間だ、すぐに戻ろう」

「今日本当に辰也の部屋に泊まっていいのか?ルームメイトがちょうどいないって書いてたけど…」

「あぁ、彼は部活の遠征で部屋を空けてるんだ、だから何も問題はないよ」

「そうか、だったらお邪魔するな」

笑顔で言い切った氷室の言葉を疑うことなく信じた伊月は、心の隅でルームメイトにタイミングよく部屋を空けてくれてありがとう、とお礼をした。実際はそうではないことを伊月はこの先も知ることはないだろう。

駅を出ると東京にはない雪が一面に積もっており伊月は目を丸くする。新幹線の窓からも見えてはいたのだが、50cmも積もっているとは思っていなかったのだろう。秋田ってすごいな、との呟きに氷室は軽く笑って自分のマフラーを伊月に巻きつける。氷室の目には、伊月のその姿が薄着に見えて仕方が無かったのだ。

「これでちょっとは暖かいかな?厚着して来ないと風邪ひくよ?」

「辰也こそこれだと寒いだろ?俺は大丈夫だから…」

「シュン、嘘はよくないよ。さっきぶるって震えたでしょ?それに俺にはこれ、あるからね」

そう言って見せられたのは手、正確に言うと手袋を履いた手。黒のそれは伊月がバレンタインの日に氷室に贈ったものだった。秋田は寒いと聞いていたから、少しでも恋人が暖かくなりますようにと伊月が選んだものである。直接渡すことは叶わなかったものの、こうして使ってくれていることに伊月はほっこりと胸が温まるのを感じた。

同じように伊月もバレンタインに氷室からパスケースをもらっていた。電車通学のため大活躍で、今日はそのお礼をするために内緒で来たようなものだ。伊月が手にしている鞄の中にはきちんとプレゼントが用意されており、渡す時を今か今かと待っている。

「ご飯食べてないだろう?コンビニで買って行こう」

「あぁ」

必要なものを買って寮に戻るも、行きのように窓から入ることに驚きを隠せない伊月だった。それでも氷室のアクティブさは理解していたため、苦笑を浮かべて同じように窓から部屋へ足を踏み入れた。

「外出許可とってなかったのか…」

「いちいち面倒なんだよ、あれ。シュンに会えるとわかったら身体が勝手に動いてたしね」

「野生の動物みたいだな」

「似たようなものかもね」

くすりと笑って伊月の唇を奪う。腕はしっかりとその身体を抱き締めるようにまわす。伊月の手も氷室の背中にまわり、シャツを握りしめている。熱い口付けが交わし終わると氷室は抱き締める力を強くし、伊月はその肩口に顔を埋めた。

「会いたかったよ、シュン」

「がっつきすぎ…でも会いたかったのは俺もだよ」

「仕方がないじゃないか、中々こうして触れられることがないんだから…久々にシュンを堪能したいんだ」

「辰也、なんかその言い方おじさんくさい」

伊月の言葉に吹き出したのは同時だった。しばしの間お互いに笑っていたが、落ち着くと抱きしめていた腕を少し緩め頬にキスを落とす。伝わる体温にこれが夢ではないことを実感した。

「辰也、渡したいものがあるんだ」

「?…渡したいもの?」

「目を瞑っていてくれるか、うんありがとう、ちょっと待って」

伊月に言われた通りに目を瞑る氷室を見てから、床に置いた自分の鞄を開けて渡すものをとりだす。太めのチェーンを持って氷室の首にかけ、目を開けてもいいという合図に口付けをする。ゆるりと開いた右目は伊月を映したあとに首にかけられたものに向く。右手で見えるように引っ張ったのは翼を象ったシルバーネックレスだった。

「これ…」

「ハッピーホワイトデー、ってことで。パスケースありがとな、大切に使ってる」

「こっちこそ手袋と、ネックレスまで…ありがとう!シュンがくれたものだから大事にするよ!」

氷室の嬉しそうな表情を見て、伊月も顔をほころばせる。これだけでも秋田に来た甲斐があったと伊月は満足しきっていた。だからこそ、氷室がポケットからこっそりと小箱を取り出して中身を手に取ったことを伊月は気付かなかったのだ。シュン、と名前を呼ばれて何かと思いきや左手を取られ薬指にはめられた指輪。

「I love you.」

突然の出来事にきょとんとするも、氷室のその言葉で現状を理解したのか急激に赤くなる伊月。そんな彼をにこにこと見つめる氷室の指にも、さっきは手袋をしていたから気づかなかったが指輪がはめられていた。それに気付いた伊月はまた一段と赤くなり、手で顔を隠すようにしてしゃがんでしまう。それにあわせるように氷室もしゃがんで、指通りのいい髪に指を通らせる。そしてもう一度、先ほど口にした愛の言葉を紡いだ。

「…I love you」

すると、くぐもっていたが確かに伊月から聞こえたその言葉。氷室はそれを聞くと微笑みを浮かべながら手に取った髪に口付けを一つ落とした。



雪で真っ白ホワイトデー



(プロポーズとか反則すぎる…)

(俺のお返し気に入ってくれた?)

(当たり前だ!辰也の馬鹿!愛してる!)



――――――――――――


遅刻しましたがホワイトデーです。ホワイトデーに雪が降ったので秋田にしよう!相手は氷室か福井さん…福月はまだ未開拓だ、書ける気がしねぇ、そうだ氷月にしよう!そんな、流れでございます。

ネックレスは意図したわけではないと思います。ただかっこいいから買ったけど、氷室は伊月さんみたぃだなぁ…と思ってたらいいな…いいな。

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