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毛布の中ではもう夫婦(黄月)
寒いから、なんてもっともらしい理由をつけて俺の肩にもたれかかって手を重ねる恋人。確かに外は雪が降っていて寒いけど、室内は暖房のおかげである程度暖かい。こうしてくっつくのはいつものことで、下になった俺の手をひっくり返して恋人繋ぎになるように握る。

今日休みでよかったッスね、とBGM代わりに流していたテレビのニュースを見て呟いた俺に対して、そうだな、と伊月さんが呟く。

「明日電車動くかな…」

「降り止まないと厳しいと思うんスけどね…部活休みになったりしないッスかねー」

「俺はこのまま神奈川から帰れなかったら強制的に部活休みかな」

「いいんスか?」

「仕方ないだろ、雪なんだから」

ふふっと悪戯っ子のように笑った震えが密着するように隣に座っている俺にも伝わり、つられて俺も笑ってしまった。
雪だから遭難ごっこと称してソファの上に体育座りをして、1枚の毛布に2人でくるまり、1杯のコーヒーを2人で分け合う。伊月さんに合わせて砂糖が少なめのコーヒーは苦いはずなのに何だか甘く感じた。

「きーせー」

「何スか?」

「ただ呼んだだけー」

何故か得意げな声とともに俺の肩に増す重み。さっきよりもくっついてきた伊月さんに負けじと俺も押し返す。それに気づいた伊月さんが負けず嫌いを発揮してさらに押してくる。そんなおしくらまんじゅうのような攻防を見事に制したのは俺で、先に仕掛けてきた伊月さんは疲れたぁと言いながら俺の肩に頭をぐりぐりと押し付けている。

「あっつい」

「遭難ごっこやめます?」

「やめない」

だってまだくっついてたい、なんて。そんなこと言わなくても俺もくっついてたいんだから離れる訳はないのに。空いている方の手でその頭を撫でるとさらにぐりぐりとしてくる。痛いッスと抗議をすると痛くしてるんだよと笑われた。やられっぱなしも面白くない、頭から手を離して毛布を掴み、俺たちが頭から包まるようにばさりとかける。そしてそのまま伊月さんの方に体重をかけてソファに押し倒した。毛布は明かりを全て遮断してくれはくれないから、意図せず近くなったお互いの顔ははっきりと見えている。

「仕返し…ッス!」

「ちょっ!?黄瀬っ…くすぐったい」

「ほら、遭難してるんスから温めあわないと!」

「だからって近っ」

「寝たら死ぬッスよ!」

「寝てないから」

髪から額、瞼と軽い口づけを落としていくと、くすぐったいからか身を捩らせて逃げようとする。忘れかけていた設定を持ち出しながらも体格差を利用してうまくソファに縫い付け、ついでに言ってみたかった台詞を言ったらバッサリと切られてしまった。そしてもっとシチュエーション考えろよとの助言も。そもそも室内で遭難ごっこってのが斬新なんスよ。

「えぇー演技には自信あったんスけど」

「流れが唐突すぎて気付かなかった」

「酷いッスよそれ!?」

「じゃあほら、テイク2、何か演技しろ、はい!」

「そっちこそ唐突!」

それは楽しそうに、俺のことをいじってくるのは愛情の裏返しだと信じている。こうして付き合う前はクールな人だと思っていたけど、甘えたりちょっかいを出してきたりと意外と子供っぽい一面があることがわかった。しかもそれは親しい仲の人限定のようで、黒子っち曰く「愛されちゃってますね」、そんなこと知ってしまったら全力でそれに応えるに決まっている。

かなりの無茶振りだけどやれないことはない、俺はやればできる子なんスからね!ちょっと考えて、まずは押し倒されていた伊月さんを起き上がらせる。そして俺と向かい合うように座ってもらい、毛布をもう一度きちんとかぶって両手を握る。お手本に思い出すのは、とあるドラマのワンシーン。ステンドグラスから降り注ぐ光が、幸せそうな2人を照らしていたのが印象に残っていた。

「俺、黄瀬涼太は伊月俊を、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、あなたを想い、あなたのみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓います」

「黄…瀬?」

噛まなくてよかったぁ、と安心していた俺に戸惑いの声がかけられハッとする。これでもかってぐらいに気持ちが込めて言った言葉に、伊月さんはものすごく驚いた顔をしてこちらを見ていた。

「あ…すません、演技ってよりも本音出ちゃったッス」

「本音?本気?」

「本気ッス。だって俺、伊月さんのこと愛してるんスから!出来れば返事というか言葉が欲しいなぁ…なんて」

お願いします!と毛布の中で出来るだけ頭を下げる。告白して返事を貰うまでの間ってすごく緊張するんスね、心臓の音が周りに聞こえてるんじゃないかってくらいにばくばくとうるさいッスもん。

「黄瀬、頭上げて…うん。俺は男だし、お前が女の子に囲まれてたら嫉妬するし、わがままで独占欲も強い。年上だけど黄瀬に甘えちゃうし、子供も産めないしあんまり家事もできない…でも、」

一呼吸置いて、意思のこもった強い瞳に射抜かれる。

「パートナーとして支えていきたい」

何でこう、伊月さんって男前なんスかね…また惚れ直しちゃうじゃないッスか!照れと嬉しさと幸せと、いろいろなプラスの感情がごちゃまぜになったもので満たされた俺は伊月さんの肩口に顔を埋めた。

「俺、伊月さんのこと好きすぎてパンクしそうッス…」

「…俺は恥ずかしさでパンクしそうだよ」

その言葉に顔を上げるとかち合った視線に思わず一緒に吹き出した。そこまで明るくないからわからないけど、たぶん2人とも真っ赤になってるんだろうな、なんて思ったらなぜか笑いが込み上げてしまった。ひとしきり笑って息も絶え絶えな後に、大切なことをしていないことに気付く。伊月さんは先に気付いていたようで、クスリと笑みを零してから目を閉じてスタンバイしてくれていた。いつもしているものだけど、今日だけは特別。毛布の中で落とした誓いのキスは、やっぱりどこか甘かった。



毛布の中ではもう夫婦



(キタコレ!自信作!)

(伊月さんムード考えて!)



――――――――――――


黄月、地味に好きなんですよね…たぶん伊月さんの次に黄瀬が右の子だからだと思います。降旗君は赤降で固定だからそれはノーカンで。

いちゃいちゃしてるってのを書きたかったんですが、どうでしょうかね…遭難ごっこ、別名寝たら死ぬぞごっこは楽しいですよ?やってみてくださいおすすめです←

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