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可愛くて男前な最高の恋人(森月)
「森山さん?俺に言うこと…いえ、言わなきゃいけないこと、ありますよね?」

とてもにこやかに、だからこそ不自然さを感じる笑みを貼り付けながらも目は笑っておらず、加えて仁王立ちをしている伊月。その前にはチョコレートやらお菓子やらの入った袋2つに両脇を挟まれて正座している俺。伊月が怒っていることに対して心当たりがありまくりだが、火に油を注ぐ事態になることだけは避けたかった。あっでも一つだけ言っていい?怒ってる伊月も綺麗だよねっ!

「ごめんなさい」

「俺は謝罪が欲しいんじゃないんです、聞いたことに答えてくれませんか?」

「…この2つの袋のことだよね?」

「そうです」

今日は2月14日、女の子がソワソワしているのが可愛い日…じゃなくてバレンタインデー。去年までの俺の場合は1年間で唯一モテる日という印象しかなかった。なぜか普段、ナンパをしてもうまくいかないのだが(黄色い後輩には黙ってればモテるのにとか言われたからすぐにしばいた)、この日だけはたくさんのチョコと昨日はおめでとうという言葉をもらうことができたから。男の子だもん、喜ぶのはしょうがないじゃないか!
「昨日はおめでとう」って言うのは俺の誕生日が13日だからで、クラスメイトの女の子はたいていバレンタインとプレゼントを兼ねてチョコを渡してくれる。いいんだ、たとえ「義理で、次の日がバレンタインだから」という理由でも女の子と接する機会が出来るんだから!それ言ったら笠松に容赦ない蹴り入れられたけどね…

だがしかし、今年は違う。3年生になった俺は他校の後輩と運命の出会いを果たし、苦労の末にやっと恋人になれたのだ。愛しい伊月が居る限り!俺は女の子に興味は持たない!チョコレートはもらわない!そう決めたけど…どうも俺は押しに弱いようで。あれだよ、女の子って強いよね…ホワイトデーのお返し目当てだし本気とかでは絶対にないからと言って押し付けられたもん。うまくかわすことが出来ず、そんなことが重なってこんな量になってしまった。これでも黄瀬の量に比べたらかなり少ないんだけど。わざわざ3年生の教室まで来て「多すぎて一緒に食べて下さいッスー」とか泣きながら笠松と小堀にお願いしてたぐらいだし。

途中で捨てるなんてことできるはずもなく、俺の家に持って帰ったところで今日泊まる予定だった伊月に見つかり…浮気現場をおされられたみたいな気まずさを感じるのはこの状況が近からず遠からずだからなのかもしれない。本当は伊月が来る前に隠そうかと思っていたけど、見事に家の前でばったり。

そして俺の部屋に連れて行って速攻で土下座をしたってこと。せっかく今日は昨日の誕生日プレゼントとしていちゃつこうと思っていたのに…自分が置かれている立場を再確認して、絶望しか見えない。けどまずは正直に言わないとどうにもならない、意を決して口を開く。

「クラスメイトからもらったんだ…俺は伊月がいるからって思って断ったんだよ!?でもホワイトデーのお返しが目当てで俺のことはただの友達でこれも義理チョコとか言われて押し付けられたから断りきれなくて…」

「じゃあ森山さんは女の子から無理矢理渡されたら断れないんですね?」

そう言った伊月から表情が消えて目が細められる。確かに今の言葉だとそう聞こえても仕方ないかもしれない。痛いところを突いた言葉にハッと気付く。情けないことに口から出てくるのは言い訳ばっかで、女の子を悪者にして俺は悪くない風に話していた。本当はもっときちんと断っていればよかったことはわかっていたけど、それが出来なかった自分を正当化していた。

「ごめん、やっぱり訂正。俺が悪かった。そこまで強く押し付けられた訳でもないし、きちんと返せばよかった。伊月のことを考えたらそれぐらいのことどうってことない、むしろしなきゃだめだったよね…よし、殴るなり蹴るなりしてくれ!」

「どうして急にそうなるんですか!?」

「だって伊月怒ってるだろ…気が済むまで俺のことを殴ってくれ!」

「嫌ですよ、なんで好きな人を殴る必要があるんですか。それに森山さん、勘違いしてますよ」

男としての決心を嫌ですなんてバッサリ切られた後、なんかさらっと嬉しい事を言われた気がするけど…それを喜ぶ間も無く勘違いという言葉に首を捻る。俺がチョコをもらったから怒ってるんじゃなくて?正座をしていた俺の目線に合わせるように座って、2つの袋を引き寄せて俺の前に置いた。

「俺は別にチョコをもらったこと自体に怒ってるわけじゃありません。森山さん格好いいんですからモテるのは俺としても嬉しいですし。俺はこのお返しのことについて気になっただけです」

「…お返し?」

随分と考えるのが早くないか?

「今、早いとか思いましたね?こんな量があるんです、きちんと誰に、何を返すか決めておかないとダメです!あーもうこんなにあるからどうしよう…」

どれが誰からとか覚えてますよね?と言いながらも袋の中を覗いて難しい顔をしている。まさかの展開に俺は面食らってしまった。確かにここでヤキモチを焼いてくれていても嬉しかったけど、これはこれですごくいい。でもやっぱり気になることが。

「伊月の心が広すぎてちょっとびっくりしてる。逆の立場なら俺嫉妬しちゃう自信あるよ?」

「俺は明らかに義理だってわかるものしか受け取らなかったんで。言っておきますけど俺は森山さんに愛されてるって自覚がありますから、信用してるんですよ?」

「伊月…っ!」

今、俺が感じている感動をどうやって伝えたらいいのかわからないからとりあえず抱きしめた。腕の中の恋人は、そんな俺の突拍子もない行動にも苦笑しながら俺の背中に手を回してくれる。これは愛されてるって思ってもいいよね、いいよね!自惚れじゃないよねっ!そうやって幸せを噛み締めていると不意にあ、と伊月が声を上げた。

「森山さんに渡したいものがあるんです」

手を伸ばして荷物の中から取り出されたのは綺麗にラッピングされた箱。これはもしかしなくても…と自分でもわかるぐらいに目を輝かせて箱と伊月の顔を交互に見る。伊月は目を合わせてくれないけど、うっすらと頬と耳が赤くなっているから照れているだけらしい。

「俺からのバレンタインです。出来ればそっちのもらったのより先に食べてくれたら嬉しい…です」

「伊月愛してる!」

このあと滅茶苦茶いちゃついた。



可愛くて男前な最高の恋人



(手作りで愛情がこもってるから本当に美味しい!)

(こんな嬉し泣きしながら食べられるなんて思ってませんでした)



――――――――――――


森山さんお誕生日おめでとうございます。という訳で明日の予報です。上記のように男前で懐の広い伊月さんが森山さんのハートを撃ち抜いてくれるでしょう。なお、伊月さんは森山さんの焦る姿が面白かったのでわざと怒ったふりをした模様です。

Twitterで見かけた懐の深い受けってのを元に書きました。嫉妬する伊月さんも可愛いけど、個人的にはこんな伊月さんが好きです。それでお返しのものを一緒に買いに行くか、量が多いからクッキーを一緒に作るのか…何はともあれ末長くいちゃつけ!!って話です。

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