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後輩大好きな先輩と先輩大好きな後輩(森+宮+月)
※3人とも大学生で同居してます。
今日はこれ見るぞ、と言った宮地の手には不自然なぐらい青白い女性の顔写真と血のような字体でタイトルが書かれているパッケージのDVD。一目見ただけでホラーものだとわかるそれを見た同居人である2人の反応は両極端だった。目を輝かせて楽しみですねと言った伊月と、涙目になりながら何でそんなの借りて来るの!?と叫んだ森山。週に1度3人のオフが重なる日に行われる映画観賞会はローテーションで借りる人を変えている。今回の準備係は宮地だったのだが彼は同輩である森山よりも後輩である伊月の喜ぶことを優先する。よって、これを持ってきた時点でこのホラー観賞会はすでに決定事項となっていたのだった。
「ジュース!ジュース買ってくるから先に見てて!」
「安心しろ森山、もう俺が準備しといた」
逃げの一手を打とうとした森山だが、それは満面の笑みで放たれた宮地の一言によって打ち砕かれた。俺もついてますから、と言う伊月の言葉に、先輩としての意地やプライドをかなぐり捨てたようにお願いだからね、と勢いよく抱きついた。もちろん、それは仲介に入った宮地により物理的な方法で強制的に終わらされたが。
ローテーブルに用意していたお菓子とジュースを置いた宮地は森山に逃げるなよ、と笑顔で駄目押しをしていた。それに対して無言で伊月を引き寄せてラグマットに座らせた森山。体育座りをさせた後ろから森山がクッションのようにぎゅっと抱きしめる体勢である。そして宮地にはすぐ後ろのソファに座れと視線で訴えている。2人は森山のホラー嫌いは知っていたがここまで酷いとは想像していなかったため、面白さ半分に呆れ半分で行動を見守っていた。だからこそ伊月も文句を言わずにされるがままになり、宮地も彼の後ろのソファへ座ったのである。デッキにDVDを挿入し、リモコンで外線を選ぶと映し出された制作会社のロゴ。しかしそれはすぐさま暗い廃墟へと切り替わる。何とも言えないおどろおどろしい音楽が流れ出し、主人公の女性が懐中電灯を片手にゆっくりと進んでいく様子が映る。
「平気ですって、最初はあまり怖くないはずですから」
「そのね、はずって言葉があるから信用できない」
「まだ2、3分しか経ってないのにそんな怖いモン出てくるわけ…」
『いやぁぁぁぁぁぁあっ!?』
「うわぁぁぁ!?」
ものすごく怖がっている森山の気を紛らわすために話をしていたのだが、画面の向こうの女性の叫び声に驚いたのか身体をびくんと跳ね上げて驚いていた。それに驚く2人、特に伊月はぴったりとくっついているからなおさらだ。
「森山さん、お願いなので耳元で叫ぶのはよしてください…」
「お前思ったよりビビるな…」
「これ2時間でしたよね、大丈夫ですかね?」
「大丈夫くない…すごく怖い…」
後輩の肩に顔を埋めながらもふるふると首を振る森山。しかし、見るのを止める、という選択肢は彼の中にはなかった。せっかく借りてきたというのもあるが、何よりも宮地と伊月が大のホラー好きだからである。多数決をしたとしても2対1で劣勢、ただでさえ日頃の扱いが酷いため勝てるわけがない。ならば部屋に帰って見なければいいのだが、さっきのワンシーンにより1人で行動することも怖くなってしまった。そうなると森山に残る選択肢はただ1つ、我慢して見るというものだ。目を閉じても音声で想像力が掻き立てられるだけ、だったら見た方がマシだ。問題ない、平気だ…と自分に言い聞かせて、なおかつ伊月を抱きしめる力を強めて画面を睨むのであった。
「ちゃんといる!?」
「いますから、早く用を足して下さい!」
「怖くてなかなか出ないんだけど」
「…戻りますよ?」
「あと1分!1分だけ待って!その間にしりとりでも「やりません」デスヨネー…」
1枚の扉…トイレのドアを隔てて繰り広げられる会話は何とも気の抜けるような内容だが、森山にとっては本気のものだった。最後まで涙目になりながらも見終わった彼の開口一番はトイレ行きたいというシンプルなものだった。次に口を開けたら1人じゃ怖い、とも。その申し出を断れるほど伊月は薄情な人間ではない、自分より長身の先輩の手を取りトイレまでの道のりおよそ7、8メーターを歩いたのだった。やっぱり今度から観賞会にホラーは禁止だな…森山さん怖がるし面倒だし、とドア横の壁にもたれ掛かりながら考える。
「お待たせ…洗面所の鏡がこんなに怖いと思ってなかった…」
「どうしてそんなに気にするんですか…ほら、戻りますよ」
これじゃあどっちが先輩かわかったもんじゃない、と伊月は苦笑を浮かべる。普段頼れる先輩に頼られるのは嬉しいが、内容が内容なため素直には喜べないのが残念なところだ。未だに怖いという森山の手をとってさっさと戻ろうとしたが、さっきまでいたリビングが少し暗いことに気付く。宮地がすでに寝る準備をしていると予想をつけて何も気にせずにドアを開く。途端、パンっという破裂音と微かな火薬の匂いが漂う。咄嗟に瞑った目をゆっくりと開けるとクラッカーをもってニヤリと笑う宮地、後ろにいた森山もいつの間にかスマホを片手に宮地の隣に並んでおり同じように笑みを浮かべている。
「えっ…」
「「Happy birthday!」」
「誕生日おめっとさん、驚いたろ?」
「どうしても一番にお祝いしたかったからね、作戦成功ってとこだな」
「お前があそこまで怖がるのは想定外だったけどな。作戦失敗かと思ったっつーの」
「俺だってまさかお前がホラー借りてくるなんて思ってなかったからな!?」
わいわいと言い争いを始めた2人をぽかんと見ていた伊月だが、誕生日という単語で壁の時計を見ると12時を過ぎていた。いつの間にか日付が変わっていて自分の誕生日である23日になっていたようだ。誕生日を教えていなかったため、宮地と森山がこうして祝ってくれると伊月は全く予想していなかった。嬉しいがどうして知っているのか純粋に疑問に思っていると、口論が終わったようで宮地に手をひかれ森山に背中を押されながらソファに誘導される。そして真ん中に座らされ、両脇にそれぞれが座った。
「俺たちは先輩だから何でも知ってるんだよ」
「誕生日とか、好きなものとか、な」
「これ…」
「俺と宮地の力作な」
「こんなにでけぇの作るの初めてだったから大変だったけどな…しかもほとんど俺作ったし」
「俺だって食器洗い頑張った!」
「何ですかそれ」
やりとりを聞いているうちにくすっと笑いながら軽く突っ込んでしまった。テーブルの上にあるホールケーキ大のコーヒーゼリー、ホイップクリームでデコレーションもされており、きちんとケーキ用のキャンドルも3本たてられている。部屋が暗いのはどうやらこのためだったらしい。伊月は改めて、自分の喜ぶことを考えてくれたこの先輩2人にはかなわないと思っていた。
「食べる前に前に記念撮影しよっか!」
「オートでテレビんとこに立て掛けれるか?」
「いけそう…よし!10秒前」
「ハッ…由孝がよし、高いと言う!キ「「てない」」そんなぁ…」
本人にしては渾身のダジャレを口にするが、5秒前に華麗にツッコミを入れられた。文句は言いつつも律儀にツッコミをしてくれる優しさを感じながら、伊月はさっき言いそびれた、一番伝えたい言葉を口にする。
「ありがとうございますっ!」
その瞬間、パシャリと撮られたそれには幸せそうに笑う3人の姿が映し出されていた。
後輩大好きな先輩と先輩大好きな後輩
(お二人の誕生日、絶対俺祝いますから!)
(サンキュ、じゃあ森山んときはパイ作ろうな。顔面用の)
(ねぇ俺の扱い!?)
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誕生日おめでとう!伊月さんと出会ってもうかなり経ちますが、大好きなままです。後輩として甘やかされる伊月さんを見たいのです。3人とも仲良し、ここは恋愛感情全くないのがとても好ましい。
どうしても三人称に慣れないです。精進、精進。
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