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雨の日の傘忘れも悪くない(日月)
ざーざーと降る雨の中、鮮やかに咲く傘1つ。今は厚い雲に覆われていて見えない空のような青い傘を半分こしながら帰路についていた。今朝の時点で天気は曇り、予報の降水確率は40%だったため降らない方に賭け…見事に負けた。昼過ぎからポツポツと降り始めたそれは、下校時間には本降りになって地面に水溜りを作っていた。今日はテスト勉強期間で部活も休み、図書室で勉強をしてもいいけどもっと雨足が強くなったらそれこそ帰れない。さてどうしようかと悩んでいたところ、ありがたいことに伊月が仕方ないから入れてやるよなんて申し出てくれた。4cmだが俺の方が大きいし傘を借りて帰る身ということで、エナメルを持ち手と反対方向にかけて極力伊月が濡れないように傘を傾ける。肩が触れるか触れないかという距離を保ちながら、少しでも長くこうしていたくてゆっくりと歩いた。最近寒くなったとか、1年生が上達してきただとか、そんな他愛のない話。途中にダジャレを挟んでくるからすぐにツッコミをいれたり。

「そう言えばさ、昔雨の日に俺か日向のどっちかしか傘持ってなかったこと覚えてるか?」

「…いつの話だ?」

「黄色い帽子かぶってた気がするから…小1ぐらいかなぁ…」

急に何かを思い出したような声を上げたと思ったらそんな質問を投げかけられた。それって10年ぐらい前の話じゃねぇか…覚えていないと思うが、一応記憶を辿ろうと試みる。

「ずいぶん昔のことだから日向は覚えてないかもな…相合傘すればいいのにさ、30歩ずつ歩いたら傘をさすのを交代するとか言って結局2人ともびしょ濡れで帰ったんだ」

「あー…少し記憶にあるかも。傘は緑っぽい気がするけど、どっちのだったか覚えてるか?」

「よく覚えてたね日向!?俺、あの時何色だったかな…忘れちゃうもんだな」

先ほどこいつから出たキーワードで俺の脳内を検索。するとおぼろげながらも浮かんできたのは黄色の帽子とランドセルカバー、そして緑の傘。あぁ、あれは伊月のものだ。今日のように俺が傘を忘れたのを、伊月が仕方ないなぁ、なんて笑いながら貸してあげると言ってくれたのだ。結構な強さで降る雨の中を、歩数をきっかり30数えながら順番に傘をさして帰った。確かこいつの親が仕事で遅くなるとかで俺の家に直行したのだが、傘を持っていたにも関わらず見事なまでの濡れ鼠姿に俺の母親がものすごく怒っていたことまで記憶にある。そうだ、その後すぐ湯船に突っ込まれたんだ…よく風邪をひかなかったもんだ。伊月に風邪をひかせることがなくて本当によかったと今更ながら思うけど。

「今考えると馬鹿だよな…流石ガキ」

「考えることが幼いというか単純というか…ほら、あの年代ってお揃いが好きだから」

「濡れるのがお揃いって…」

わからないこともないけど、もう少し考えて欲しかったな、過去の俺。男気を見せて走って帰るぐらいはしろよ…どうせガキだから体力と元気は有り余ってただろうし。なんて考えていたらちょうど伊月の家の前に着いた。天気のせいか周りに人はいなく雨の音だけが聞こえてくる。

「今はどう?」

「言うまでもないだろうが」

悪戯っぽくこちらを見てくる伊月に少しだけドキッとしてしまう。最近、また色気が増したというか何というか…仕草の一つ一つが色っぽいのだ。年々美人になっていく姿に、彼氏という立場の俺としては喜び半分、不安半分といったとこだったりする。そんな思いを表面に出さないように、一応傘で俺たちが隠れるように傾け、その中で軽いキスを落とす。離れて伊月と目が合うとさも嬉しいですってな具合に微笑んでいた。くそ可愛いんだけど。

「まぁ、日向がまた忘れても俺が入れてやるよ」

『また忘れても俺が入れてあげる!』

その言葉に昔の伊月が重なった。んなこと言われたらわざと忘れたくなるじゃねぇか、と思った俺も大概変わってないのだろう。それを口にするのは恥ずかしかったから、代わりにもう一度キスをしてやった。



雨の日の傘忘れも悪くない



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久しぶりに日月を書きました。誰おま状態に泣きそうです。相合傘にたぎる。道中記で同タイトルにて書きましたがこっちのが甘く書けたのでよかったです。

お題お借りしました。xxx!


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あきゅろす。
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