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あなたがくれたから(笠月)
「よろしかったらこちらのアンケートに記入お願いします」

食事を終えて先に頼んでおいたデザートをお願いすると渡されたのは、ボールペンとハガキ大の簡単なアンケート。店員が離れて行ったのを見てすぐにボールペンを手にする。

「お前、書くのか?」

「俺、ここに来たら毎回書いてますよ。笠松さんは書かないんですか?」

「…書く」

そう言ってボールペンを掴んだ笠松さんはこういうものを書かない派なんだろうな。

笠松さんが大学生に、俺が受験生に。付き合ってから1年少し、進学がこっちだったために一人暮らしをしている彼の家に入り浸るのは週の半分を越えていた。いつもなら一緒にご飯を作って食べるけど、今日は笠松さんに臨時収入があったとかで奮発して外食ってことになって。さっきまでみっちりマンツーマンの指導の下、勉強に励んでいて頭を使っていたからかものすごくお腹が空いていた。そのため、たくさん食べることができる場所ということで近くにある少し高めの鍋のお店でご飯にすることに。何回か家族で来たことがあるこのお店は、雰囲気もいいしメニューも食べ放題のコースがあるのを知っていたから俺が推薦、結果笠松さんも満足してくれたようだ。それで最後にアンケートを毎回渡されるのだが…

「(…どうしよう)」

アンケートの一番上の質問で手が止まってしまう。それは“今日はどなたとご来店になられましたか?”というもので。付き合ってはいるけど、周りから見たら男同士だし…恥ずかしいけど3のカップルで、にするか、4の男性同士にするか。少し考えたけど、たかがアンケートでそんなに時間かけるのも変だし店員もそんな見ないよな、と自己完結させてチェックを3に入れようとした。あ、でもその前に、目の前の彼はどう答えたか気になる。

「(書いてないかもしれないけど…)」

さっきの様子だと、上の通信簿にしか評価の数字を入れてないかもしれないなぁとも思いながらもちろりと視線を動かす。

「(項目6つ全部4にしてる…面倒だったんだな)」

笠松さんらしいや、と苦笑をこぼしつつ視線をさらに動かす。

「わ…」

「どうかしたか?」

「いえ、何でも…ないです」

「?そうか…」

えっ、びっくりした。驚きすぎて思わず声が出た…俺が視線を例の項目の部分に動かしたその瞬間に躊躇いなく3のカップルで、にチェックを入れていた。どうしよう、すごく嬉しい。口元を不自然にならないように手で隠して必死に表情を作っていた。

「何にやけてんだ?」

すぐばれたけど。

「いえ…ここのコーヒーゼリー美味しいんで楽しみだなぁって」

「ふぅん…そんなうまいなら一口」

「その代わり笠松さんの杏仁豆腐も下さいよ!」

早くも笠松さんは書き終わったようでボールペンを置いていた。俺も早く書かないと店員がデザートを持って来てしまう。急いで3にチェックを入れて、その下の項目は全て適当に書いておいた。紙を半分に折ったとこでちょうどデザートが運ばれて来てアンケートも回収された。

「…お前ずいぶん躊躇いなく3にチェックいれたな」

「…最初のとこですか?」

「あぁ。俺も3にしたけど」

そう言った笠松さんの顔は心なしか嬉しそうに見えた。ぐだぐだと恥ずかしさから迷っていた自分が恥ずかしい。好きな人の幸せそうな表情を見れるなら、別にそんなもの構わなくてもいいじゃないか。コーヒーゼリーに手をつけながら、吹っ切れた俺は言葉を紡ぐ。

「ちょっと迷いましたけど…でも、周りにどう思われようと俺たちの関係は変わるものでもないので」

「お前は…たまにすげぇ男前になるよな」

「たまに、は余計です!」

わざと怒ったフリをして、スプーンですくったゼリーをずいっと笠松さんの口元に差し出す。俺は男だから男前なのは当たり前だ、なんてちょっとは思ったけど。

「食べないんですか?」

「食べるに決まってんだろ…うん、うめぇ」

個室仕様になっていたからこそできたあーん。普段は恥ずかしくてできないけど、さっきのが思いのほかテンションをあげているようだ。もう一度すくって今度は自分で食べる。やっぱうまい。

「ほら伊月、食え」

そう言って同じように差し出されたスプーンの上に乗っている杏仁豆腐、ゼリーを飲み込んでぱくりと口にする。それは、いつもより甘い、そんな気がした。



あなたがくれたから



(愛する人といる幸せを)



――――――――――――


昨日のTwitterの呟きの。森山さんだと気障な言葉が出て来そうだったんで。最初は宮地さんだったのがいつの間にか笠松さんになっていた罠。書き分け難しい(´・_・`)

お題お借りしました。xxx!
※君がくれたから→あなたがくれたから


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