風羽ちゃんと美咲さん
バスに揺られ小一時間。月宿市からはかなり離れているだろうか。そして一体どこに向かっているのか。バスから見える景色を見てもさっぱり分からない。
「先生」
「ん、なんだ?」
「先ほどから、何処に向かっているのでしょうか?」
「気になる?」
「気になります」
「そっか。でも、ひ・み・つ」
こんな事を意味ありげに言われて気にならないわけがないのは、相手だって分かりきっているはずなのに。大人の余裕というやつか。
「なーに、難しい顔してんだー?可愛いんだから、笑ってなさい!」
頭をくしゃくしゃっと撫でられた。何か言い返そうと思ったのに。それさえも全部見透かされている気分で、ちょっと釈然としない。私は、いつまでたっても子どものようだ。いや、確かに子どもではあるけれど。でも、そんなに魅力がないのだろうか。悔しい。
「おーい、菅野?」
「おぉ!手が、」
「ん、あぁ。市街地越えたからなー、嫌か?」
「いえ、大歓迎です」
「大歓迎って、お前な。
いや嬉しいけど、嬉しいけど、さ」
「む。なにかご不満でも?」
「んー、無防備?」
「……無防備、ですか?」
「そう、無防備!」
これはやはり悔しい。何かこれは何か先生に出来ないものだろうか。先の目的とはズレているのは分かってるけど、なんとかして先生の余裕を崩したい
「私、今日、誕生日なんです」
「お、おぉ。知ってるよ。美咲ちゃん、朝から頑張っちゃったもん!」
「はい。朝ごはん、美味しかったです。」
「有り難うな。で、どうした?」
「せっかくの誕生日ですから、ひとつお願いをしてもよろしいですか?」
「お前がお願いなんて珍しい。俺で出来る範囲なら、なんでもどうぞ!」
しっかりと相手の目を見て尚且つ真剣に、
「先生の、いえ、米原美咲さんの一生を私に下さい。必ず幸せにします」
呆気にとられた美咲さんの表情は何年経っても忘れはしないと思う。
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