Assassination.
13時間目
翌日。
渚と一緒に登校して来た花澄は、教卓の上を見て唖然とした。
と言うのも、真っ赤なタコが対先生用ナイフで突き刺された状態でそこに置いてあったからだ。
「……渚、コレって……」
「……うん。多分、カルマ君がやったんだと思う」
チラリと教室後方を見ると、カルマは楽しそうな顔をして笑っていた。
「おはよ、花澄」
「……赤羽君、何で、あんな事」
「んー?
何でって……まずは心から殺そうと思って」
「……」
「身体は今殺さなくてもいい。手始めに心からじわじわ殺してやるんだ」
「……でも赤羽君、殺せんせーはあの人とは違うんだよ」
「違わないよ。だってアイツもあのモンスターも『先生』なんだから。俺にとっては一緒だよ」
「でも……」
花澄が反論しかけたところで、当の本人ー殺せんせーが教室に入ってくる。
教卓の上の異変に気が付いた殺せんせーにカルマが挑発の言葉を浴びせかけると、殺せんせーは暫く黙り込んでいたが、不意にドリルとミサイルを取り出した。
「先生は暗殺者を決して無事では帰さない」
そう言ってから、殺せんせーはカルマの口の中に向かって何かを投げる。
「あッつ!!」
投げ込まれたのはタコヤキだった。
「先生はね、カルマ君。手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を」
「今日1日本気で殺しに来るがいい。そのたびに先生は君を手入れする」
「……!!」
「放課後までに君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」
その言葉と共に、SHRの終わりを告げるチャイムが鳴る。
花澄には、そのチャイムの音が、カルマと殺せんせーの戦いの始まりを知らせるゴングの様に感じられた。
1時間目・数学。
隙を突いて先生を撃ち殺そうとしたカルマの手に、殺せんせーはネイルアートを施した。
4時間目・技術家庭科。
スープ鍋をひっくり返したタイミングでナイフを突きつけたカルマだったが、スープは全て殺せんせーにスポイトで吸われた挙句、花柄のエプロンと三角巾を着けさせられ、失敗。
5時間目・国語。
殺せんせーが背中を見せた時にカルマがナイフを取り出すも、先生に髪型を七三分けにされてしまった。
「……」
放課後に近付くにつれ、どんどん機嫌が悪くなるカルマを横目で見ていた花澄は、項垂れて小さな溜息を吐いた。
「無理だよ、出来っこない」
放課後、花澄は真っ先に渚の元に向かってそう言った。
「いくらあの赤羽君だって、本気で警戒してる殺せんせーに勝てる訳ないよ。あんなにコテンパにされてる姿見せられたら、隣の席にいる私まで心が折れそうだもん」
「……うん。僕もそう思うよ」
「私、散々赤羽君に助けて貰ったのに、あんな状態の赤羽君に、何もしてあげられない。何かしなきゃって思うのに、何して良いか解らない。……そんな自分に腹が立つし、凄く悔しい」
「花澄……」
渚は暫く少女を無言で見つめていたが、不意に花澄の手を掴んで歩き出した。
「行こう、花澄。
カルマ君のところに」
「え?」
「話してみなきゃ何も始まらないよ。ちゃんと向き合ってみようよ、カルマ君と。僕も着いて行くから」
「……赤羽君、まだ学校にいるのかな?」
「多分まだいると思う。あのカルマ君が、何の理由も無く此処で引き下がるとは思えないし」
「……そだね」
それから2人は、終始無言で外に向かって歩き出す。
窓から差し込む西日が、花澄と渚を優しく包み込んでいた。
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