Confusion!!(修正前)
5.
走って、走って、走ってー。
私は走る。
新宿駅から電車に飛び乗り、池袋に着いてからもひたすら走る。
走り続ける。
南池袋公園まで、休む事なく。
苦しかった。呼吸が辛かった。
でも、私は行かなければならないと思った。
何でだかは解らない。
でも、私は公園へ行って、最後まで見届けなければならないと思った。
そして私は、南池袋公園にて信じられないものを見る。
それは、平和島静雄というたった一人の男の腕力がー
百人の辻斬りを、圧倒している姿。
静雄さんの戦い方は、実にシンプルだった。
殴る。
蹴る。
力任せにぶん投げる。
ただ、それだけだった。
殴る殴る殴る、
蹴って蹴って蹴ってまた殴り、
人を投げながら後ろ足ではまた蹴り、振り返りざまに拳を入れる。
シンプルなシンプルな、格闘ゲームで言えばボタン一つで出る技の繰り返し。
でもーシンプル故に、その恐ろしさが身にしみた。
静雄さんが刃物を持った者の腕を殴れば、ただそれだけで相手の腕が嫌な音を立てて動かなくなる。
牽制のローキックを入れれば、それだけで相手の膝が破壊される。
人を投げれば、まるで漫画のように水平に飛んでいく。
香港のアクション映画のように、華麗な体裁きで魅せるような戦い方ではない。
でも、私は、いや、その場にいたセルティさんや百人の辻斬りでさえも、その姿に心を完全に奪われていた。
強い。
今の静雄さんを語るには、その単語で十分だった。
いや、あえてあげるならばー二つだけ不足があった。
怖い。
そしてーかっこいい。
鬼、という表現は既に当てはまらないだろう。
今の静雄さんはーまさしく、鬼神と呼ぶべき強さだった。
いやーそもそも、彼を表現する言葉など要らないのだ。
その強さだけが、言葉以上の言葉となって、世界に己の存在を知らしめているのだから。
百人近い『罪歌』達は、静雄さんのあまりの強さに一旦後ろに下がり、連携で攻撃を加えようと互いに目配せをし合っていたのだがー
突然、全員の動きが一致した。
公園の中にいた、静雄さん、セルティさん、そして私を除く全員がーある方向へと向かって、同時に首を向けたのだ。
まるでシンクロナイズドスイミングのように、百人が同じタイミングで、同じ方向に眼を向けている。
ーなに?
私もつられてその方向に眼を向けるけど、そこには公園の出口があるだけだ。
「……もしかしてよ……この近くで、なんかあったんじゃねえか?
何かはよく解らないけどよ……
ここは俺がなんとでもすっから、ちょっと見てきたらどうだ?
どっちにしろ、お前いまなんもしてねえだろ」
静雄さんは私には気が付いていないようで、セルティさんに向かってそう言った。
セルティさんも、多分今は私には気が付いていない。その位、静雄さんの戦い方は凄かった。
セルティさんが静雄さんに何かを渡すと、静雄さんは「……ありがとよ」と言ってニヤリと笑いながらそれをはめていた。
あれ……手袋…?
見つめていると、バイクに乗ったセルティさんが私に気が付いて、『乗って』とPDAを突き出してきた。
私が首を横に振りながら、
「……私は静雄さんを最後まで見届けたい。
静雄さんの姿を眼に焼き付けたいんです」
と言うと、彼女はコクリと頷き、そのまま公園の外へとバイクを飛ばし、あっという間にその姿を消してしまった。
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