Confusion!!(修正前)
5.
「愛してるわ、平和島ー静雄」
初対面なのにも関わらず、女言葉で愛の告白をする中年男性。
その目は赤く染まったままで、とても正気とは思えない。
そして、セルティさんは、塀にへたりこんでいる杏里ちゃんに手を差し伸べた。
「ひッ……」
軽く悲鳴をあげた杏里ちゃんだったけど、セルティさんに敵意が無い事を感じ取ると、恐る恐る手を取り返し、そのまま道路に立たせてもらった。
『大丈夫?怪我はない?』
取り出したPDAに打ち込まれる文字を見て、杏里ちゃんは驚いたようにセルティさんのヘルメットをみるが、「え……あ、はい。大丈夫……です」と答えた。
『珠音、お前にも聞いているんだぞ』
「え?あ、私は平気ですよ」
『そう、それなら良かった。
2人とも、離れてた方がいいよ』
セルティさんは安心したように文字を打った。
そして、彼女は手から影の鎌を生み出し、それを背に構えながら斬り裂き魔の方へと足を向ける。
一方、斬り裂き魔は先刻から言葉を封じ、静雄さんの方へとゆっくり歩を詰め寄っていた。
右手に持った包丁を腰の左に構えるという、居合いのような体制のままで徐々に徐々ににじり寄る。
でも、静雄さんはこめかみに血管を浮かべたまま、ただ静かに笑みを浮かべていた。
「俺は、真剣白羽取りなんざできねえ。そんな俺に包丁を振り回すってこたあ……殺されても文句は言えねえよなあ……」
そう言いながら、静雄さんは横に止めてあったバンへと手を伸ばす。
斬り裂き魔は静雄さんが何をしようとしているのか解らなかったようだったけれど、特に気にしないというように歪んだ自信に満ちた目つきで口を開いた。
「何をしても無駄よ。私の剣が避けられるとでも思ってるの?
言っておいてあげるけどーかすり傷。貴方と私が愛し合うのに、ほんの1ミリのかすり傷でもOKなのよ?」
私達は言葉の意味が解らず首をかしげるが、遊馬崎さんと狩沢さんだけが、驚きと喜びが混じったような声をあげる。
「そうか!よくわからないけど、きっと切っ先に毒でも塗ってあるっすよ!一滴でドラゴンもオダブツってぐらい凄い毒を!」
「もしくはあれね。傷口さえ作ればそこに寄生虫とか花の種を植えつけてジワジワとオダブツってわけね!」
2人ともマニア発想丸出しだ。
でも、斬り裂き魔だけは、意味ありげな笑いを浮かべている。
どうやら、あたらずとも遠からずといったところのようだ。
つまり、ある程度の傷を覚悟しての『肉を切らせて骨を絶つ』方式は使えない事になる。
静雄さんが一番得意そうな戦法が封じられたと解り、私は少し心配になった。
でもーそれは杞憂に終わる事となる。
黒いヘルメットをかぶったまま、静雄さんは門田さんに理不尽なお願いを突きつけた。
「門田ぁ……
ドア、借りるぞ」
「?」
門田さんが返事をする前に、静雄さんはバンの後部側面にある開きかけのドアに手をかけー
まるでチケットの半権をもぎるように、ドアをあっさりとねじり取った。
ー『は?』ー
私は唖然とした。
ううん、私だけじゃない。
その場にいた全ての存在の感想だったと思う。
門田さんや遊馬崎さん達も。
杏里ちゃんも。
セルティさんも。
そしてー斬り裂き魔でさえも。
片手で、特に力を込めた様子も無い。
全身の体重の力を使っているようにも見えず、ただ、文字通り『腕力』だけで車のドアを引き剥がしたのだ。
静雄さんは言葉を失っている面々の前で、ドアの内側の取っ手に指をかけ、握力だけでそのドアを持ち上げる。
……斬り裂き魔の方へと向かって。
「あ……」
斬り裂き魔が静雄さんの意図に気付き、初めて表情を不安に歪ませた。
居合いの構えも、かすり傷をつければ発動する『秘策』も、全てが無意味になった。
盾。
静雄さんは、バンのドアを巨大な盾として、斬り裂き魔から自分の前面を守る形で構えたのだ。
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