[携帯モード] [URL送信]

Confusion!!(修正前)
5.
同時刻ー。


「折原臨也って、やっぱりおかしな名前よね……」

「んー。こんな風に育ったのは偶然かもしれないけど、結構自分じゃピッタリだと思ってるよ」


珠音の部屋から出て来た折原臨也は、奇妙な盤面の上で一人将棋を行っていた。


「ねえ波江さん、君は偶然ってどこまで信じる?」

「……なんの話?」


その碁盤は三角形をしており、三角形の桝目に沿って、通常の将棋の駒が器用に三陣営にまたがって並べられている。


「彼らは、今回の色々な事が偶然だと思ってるんだろうなあ。贄川春奈が園原杏里の部屋にいた時、偶然那須島が来たと思ったんだろうねえ。本当は、あの時間帯に行くように那須島を追い詰めたりおだてたり、園原杏里の家の詳しい場所を教えたりしたのは俺なのにさ。
しかしあいつ、教師の癖に本当にバカだったな。住所ぐらい他所(よそ)のクラスの名簿を盗み見りゃ簡単なのによ。変な噂を立てられるのを避けたのかね。あれだけセクハラやっといて」


クツクツと笑いながら、臨也は一連の事件に思いをはせる。

因みに贄川春奈は、斬り裂き魔事件を起こしていた犯人だ。
贄川は、那須島隆志を愛していた。
だがー贄川の愛の表現の仕方は歪んでいたのだ。
彼女は5年前、園原杏里の母親が斬り裂き魔の『罪歌』を名乗っていた頃に、斬り裂き魔の被害にあった。
しかし、贄川春奈は、『罪歌』を彼女曰く「愛の力で」制し、愛を表現する為に、那須島を斬りつけようとした。
那須島は、問題にならないように贄川春奈を転校させた。
その頃からだ。
那須島が、園原杏里に手を出し始めたのは。


「いやあ……それにしても、『ある』って前提で調べてみると、結構あるもんだね。妖刀とか妖精とかいうもんはさぁ」


自分の知らなかった情報が山ほどあった事に快感を覚えながら、罪歌が巻き起こした事件の結末を思い出し、臨也は更なる高揚感に打ち震えた。


「そう……本当に偶然だったのは、那須島が俺の金を盗っていった時、本物の『罪歌』が現れた事かな」



もともと生活の荒かった那須島は、粟楠会の管轄の闇金から金を借りて、かなり切羽詰まった状態になっていた。
そこで彼は一計を案じたのだ。
自分をかつてナイフで脅した贄川春奈。
その親を脅して、なんとか金を引っ張ってこようとしたのだ。
粟楠会の紹介で、折原臨也という情報屋を紹介されーそこで彼は、ちょっと家をあけるから待っていてくれといって立ち去った臨也の事務所の中でー机の上に置かれた、黒いバッグに眼を向ける。
そのバッグからは札束がいくつもはみ出しておりー臨也の予想通り、那須島は金を持ち逃げした。
闇金に金を叩きつけて、そのままどこかへ高飛びするつもりだったのだろう。
臨也の商売柄、警察に駆け込めないという事も見込んでいたのかもしれない。
あとはセルティに頼んで、那須島を捕まえてもらうだけだった。

この時、セルティは本物の『罪歌』に襲われたのだ。

本物の罪歌ーもとい、園原杏里は、斬り裂き魔=首無ライダーだと考えていたらしく、セルティを斬った。
セルティは無駄に丈夫だった為、この時辺りをキョロキョロと見回してしまい、自分を斬ったのが園原杏里だとは気が付かなかったのだ。

そして臨也は那須島に、金を持ち逃げしようとした事を粟楠会に告げると脅し、自分の手駒として鎖をつなげたのだ。

ー『罪歌』の大本である、贄川春奈を利用する為に。


「だけど、そこに贄川みたいな『コピー』じゃない、本物の『罪歌』の持ち主が現れたじゃないか……おかげで、色々と面白い事になったよ。
まあ、俺としては、あんなに珠音と仲良くなっちゃったシズちゃんが死んでくれたら最高だったんだけど、そこまで高望みはできないか」

「面白い事って?」


一人で楽しそうな顔をしている臨也に、波江はなんの感情も抱かずに言葉を返す。
臨也は内緒話を我慢できなかった子供のように、目を爛々と輝かせながら状況を語り出した。


「これで街は、ダラーズと黄巾族、そして、園原杏里が統べる妖刀軍団の三つに分かれたわけだ。……しかも、妖刀組は、ダラーズと黄巾族にもそれぞれ潜入しているときた」

「ふーん。それって、凄い事なの?」

「今すぐには凄い事にはならないだろうが……今は、火種で十分だよ。何ヶ月かすれば、その火種はくすぶってくすぶって……ああ、俺はもう待ちきれないよ!?」


新作ゲームの発売を待つ子供のように、臨也は笑いながらソファーに大きく寄りかかる。
一方の波江は相変わらず無表情のままで、喜んでいる臨也に淡々と疑問を投げかけた。


「……でも、黄巾族って数はいるけど、3年前に中学生のガキが作ったチームなんでしょ?バランスが悪すぎるんじゃない?」


もっともな意見を唱える波江に対し、臨也は笑顔を引き締めて、諭すように言葉を返した。


「それ、さっき珠音にも聞かれたよ。全く、君にしても珠音にしても、発想が単純だよねえ……
逆に考えなよ。ガキのくせして、あれだけの人数を纏めてるってのがー既に脅威なんだよ!」


臨也はそう力強く告げた後、それに続く言葉は、まるで独り言のように呟いた。


「まあ……黄巾族の『将軍』とも、俺は知らない仲じゃないしねえ……」



[*前へ][次へ#]

5/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!