Confusion!!(修正前) 7. そしてセルティさんは、今度は平和島さんに向かってPDAを差し出す。 『いや、ほら。私は首無しライダーだから。全然平気だから』 「私も、別に自分が被害にあった訳じゃありませんから……」 「いやいやいや、もうそういう問題じゃないから。刀を向けた=万死だろ。普通は。 珠音も他人事じゃねーぞ。巻き込まれただけかもしんねえけど、危険な目にあった事だけは確かだしよ」 ただ、平和島さんは、怒りの対象が目の前にいないので、いつものような爆発的な怒りではないようだ。 今は……まるでエネルギーをお腹の中に貯めこんでいるような状態だった。 「知ってるかお前ら。言葉には、力があるんだぞ? だから俺は今、全てをぶち壊すような俺の中の衝動を『言葉』で抑え込むことにしてるんだ」 だからこそー私は初めて平和島さんが恐ろしく見えた。 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」 この状態がしばらく続いて、もしも目の前に斬り裂き魔が現れたらー ー多分、いや絶対に、確実に、斬り裂き魔は死ぬんだろうな…… 私は犯人に少しだけ同情しながらーすでにセルティさんのバイクの後部に跨(またが)ろうとしている平和島さんの姿を見つめていた。 『仕事は。今は休憩中だろ?』 セルティさんが平和島さんに尋ねる。 「いいよ、そんなん」 『おいおい!私や珠音のためにクビになるなんて許さないぞ。それに、まだ斬り裂き魔を探すには色々情報を集める準備が必要なんだ。とりあえず、お前の仕事が終わるまで待っててくれ。その間に準備を済ませるから』 「……」 考え込む平和島さんに、私は静かに語りかける。 「平和島さん……今はとりあえず落ち着きましょう?私も平和島さんがクビになるのは嫌ですよ。トムさんも、弟さんも……きっと悲しむと思います」 すると平和島さんは、諦めたように呟いた。 「わかった……だが、なるべく早くしてくれよ」 小声でぶつぶつ『殺す殺す殺す殺す』と呟きながら、その合間にようやく言葉を搾り出す。 「俺の中に今溜め込み始めた感情がよお。もう出てえ出てえって喚きだしてんだ……。 もしもこのままずっと放っておいたらー」 「俺は多分、自分で自分を壊しちまうだろうからよ」 ♂♀ その後、セルティさんは黒バイクに跨(またが)って何処かへ行ってしまった。 その場には私と平和島さんのみが残される。 「……悪りぃ。俺、今から仕事なんだ。お前の事、送ってってやれねえわ」 「大丈夫ですよ。私、その辺ぶらぶらしてるので。 全てが終わったらーまた会いましょう」 私はそう言って少し微笑んだ。 そして、その場を離れようとする。 すると、平和島さんが「珠音」と私を呼んだ。 私が振り返るとー刹那、彼は私をふわっと抱き締めた。 突然の出来事に、私は頭の中が真っ白になる。 「あ…あの……?平和島さ」「静雄」 「……へ?」 平和島さんは私を放すと、私の目を見つめてこう言った。 「その、『平和島さん』って呼び方、よそよそしいから好きじゃねえんだよ。 ……下の名前、呼んで欲しい」 「あ、はい。 ……えーっと…静雄さん?」 私が疑問系でそう言うと、彼は満足そうな顔つきになった。 静雄さん、か……。 慣れない名前呼びは、何だか無償に恥ずかしくてこそばゆい。 顔に集まる熱に気付かれたくて、頬に両手を当てて俯いていると、 「……いきなり抱き締めちまって悪かった。じゃ、また後でな」 と言いながら、彼は私の頭をくしゃっと撫でて、その場を去って言ってしまった。 平和島さん……否、静雄さんは、私と会う度に、いつもいつも、大きな手で私の頭を撫でてくれる。 静雄さんには内緒だけどー私は静雄さんの手の温もりが凄く好きだ。 でもー。 今の私は、恐らく彼を恋愛対象として見る事はできないだろう。 彼だけではなく、他の誰かを愛する事なんてできないと思う。 私はーいつまでもいつまでもいつまでも、過去に囚われ続けているのだから。 私が過去と向き合わない限り、私は何も愛する事ができないのだ。 そして私は、真っ赤に染まる夕焼けの中、彼の事を考える。 この池袋で、私の過去を唯一知っている人間。 人をこよなく愛し、人を愛する為ならば、どんな事でもやってしまう人間。 頭の中では解っているのだ。 私は、彼から逃れられないと。 いくら足掻いても、もがいても、私は、私の全てを知っている彼から逃れることはできない。 彼も、私が逃げられない事を解っていながらもー敢えて高見の見物を決め込んでいる。 でもー 今はまだ、彼に顔を合わせられる気がしない。 だから、せめてもう少しだけー 足掻いて、もがいて、過去から逃げていたいんだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |