Confusion!!(修正前)
3.
「……で、そのチンピラ、逃げたと見せかけて俺らの後をつけてたみたいなんすよ。それで、喫茶店から出た瞬間に大勢で追っかけて来てこの始末っす」
先ほどはおかしな説明をしていた遊馬崎さんが、今度はきちんと帝人君に状況を説明していた。
遊馬崎さんによると、どうやら事の発端は、縞模様の特攻服を着たチンピラに絡まれていたクルリちゃんとマイルちゃんを門田さんが助けた事だったらしい。
……最も、クルリちゃんとマイルちゃんも、鞄を武器にしたり顎を蹴り上げたりして、チンピラを倒すのに協力したらしいけれど。
門田さんは、クルリちゃんとマイルちゃんが臨也さんの妹だと言う事を知っていたそうだ。
クルリちゃんとマイルちゃんは人と落ち合う為に池袋の街に出てきたらしいが、その人からいつどこで会うかの連絡が来るまでは、私達の池袋ツアーに参加する予定だったと言う。
だが暫く経った後、渡草さんのバンに乗りこもうとした瞬間に、五倍程度の人数に膨れあがったチンピラ達のバイクが迫ってきて、反撃しつつの逃走劇が幕を開ける結果となったそうだ。
「全く、ヤンキー漫画だけを見て育ちましたって感じの連中だよねえ」
狩沢さんが溜息をつく。
「それは違うっすよ狩沢さん!ヤンキー漫画の主人公は殆ど弱きを助け強きをくじく漢気(おとこぎ)溢れる人達っすよ!寧ろそういうのを教科書代わりにしてるなら、女の子を襲うなんてしねーっす!」
狩沢さんと遊馬崎さんがいつも通りの会話を繰り広げているその脇で、隣に座っていた黒沼君が私に囁きかけてきた。
「珠音さん、足大丈夫ですか?」
「あー……まだ痛むけど大丈夫だよ」
「そうですか……安心しました。
あの、珠音さんは、クルリとマイルとどうやって知り合ったんですか?」
「偶々ぶつかっちゃったの。黒沼君と私がぶつかっちゃったあの日に」
「なるほど……珠音さん、厄日だったんですかね。入学式の日」
「あはは、そうかもね」
その時、帝人君が恐る恐るといった様子で口を開く。
「こ、これ、どうしましょう!警察に通報を……」
だが門田さんは、首を振って答えを返した。
「多分もうとっくに通報はされてる筈だ!さっきちらっと白バイが見えた!
……問題は、警察が集まってくるまでの数分、逃げ切れるかどうかだな。この人数に鉄パイプでボコられたら、俺はともかくお前らはヤバイだろ」
「た、確かに……」
「安心しろ、お前ら学生連中だけは最低限逃がしてやらぁ。いざとなりゃ、警察署に直接つっこんでやらぁな」
その言葉に帝人君は一瞬頷きかけたが、直ぐに顔を引き締めた。
恐らく自分がダラーズのボスであるが為に、逃げ出す訳にはいかないと思っているのだろう。
拳を握りしめる帝人君の顔を見て−黒沼君が彼に声を掛ける。
「あの、竜ヶ峰先輩、大丈夫っすか?」
「え?あ、あ、ああ、大丈夫だよ。御免、君達だけでもなんとか……」
「いや、そうじゃなくて……いや、なんでもないです」
歯切れの悪い黒沼君の態度に私は眉を顰めた。
−この前といい今日といい……
−この子、絶対に何かある。
「セルティさん……やっぱり、賞金を掛けられたから……」
ポツリ、と紡がれた小さな声。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけ、セルティさんの姿を見て、帝人君が状況にそぐわない言葉を口にする。
「もう……気軽には会えなくなっちゃうのかな……」
「……」
私は、帝人君の言葉をー聞いて聞かぬ振りをした。
だって……だって、そんなの、認めたくなかったから。
セルティさんに会えなくなるなんて……嫌だったから。
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