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Confusion!!(修正前)
3.
お寿司は、身が引き締まっていてとても美味しかった。

私は自分の分の代金位は支払おうとしたけれど、臨也さんに上手く丸め込まれてしまい、結局は奢ってもらう形になってしまった。


♂♀


露西亜寿司を出て新宿に戻ってから30分程経った頃、臨也さんが自分のケータイを持って私の部屋へ入ってきた。


「珠音、君に電話」


電話?


「誰からですか?」


臨也さんはその問いには答えない。

私は溜息をつくと、彼のケータイを受け取った。


「……もしもし?」

『珠音さん』

「!」


私は目を見開いた。

この声は、だって、この声は。

臨也さんは部屋から出る事なく、無言で私を見つめている。


「き……紀田君?紀田君なの?」

『そうです。紀田正臣です。
本当は直接珠音さんに電話したかったんすけど、よく考えてみたら俺、珠音さんの電話番号知らなくて……
それで、仕方なく臨也さんに電話したんです』

「そっか。……体調は?大丈夫なの?」

『あ、お陰様で。バリバリ元気っす』

「良かった……
明日、お見舞いに行くね」


私がそう言うと、電話越しの彼は黙ってしまった。

……私、何かまずい事言った?


「……紀田君?」

『……珠音さん。俺は……いや、俺と沙樹は、明日には池袋を出ます。電話番号も解約して……沙樹と一からやり直すつもりです』

「! じゃあ、暫く会えなくなるの?」

『はい。だから最後に貴方と話がしたくて電話しました。
珠音さん、俺、珠音さんの話に本当に救われたんです。だから、どうしてもちゃんとお礼を言いたくて……
ありがとうございました。
それと……卒業式、行けなくてごめんなさい。
約束、破る羽目になっちゃって……
最低の男っすね、俺』


紀田君の声が震えている。


「私はお礼を言われるような事はしてないよ。それに……卒業式の事は仕方ないよ。だって紀田君は、私との約束よりも、もっともっと大事なものを守る為に行動して、そのせいで怪我をしちゃったんだもん」

『でも……』

「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ?私は最後に紀田君が電話をくれただけでも嬉しかった。だからそれだけで充分満足だよ」


本当は会って話がしたかったけどね、という言葉を心の中で呟く。


『……珠音さんは、最後の最後まで本当に優しいっすね。珠音さんは、俺にとって頼れるお姉さんみたいな存在でした。貴方みたいな人、臨也さんの傍にいるのには勿体無いですよ』

「いや、私はあの人とはそういう関係じゃ……」

『でも、少なくともあの人は、珠音さんの事、気に入ってますから。珠音さん、あの人に騙されないように気を付けて下さいね。
……あ、ちょっと沙樹と代わります』

「あ、うん」


沙樹ちゃん、紀田君と一緒にいたんだ。
良かった……

少しの間沈黙が流れた後、優しげな少女の声が私の耳に入ってきた。


『もしもし、珠音さん?』

「沙樹ちゃん……紀田君と仲直り出来たんだね。
本当に良かった……」

『はい。色々とありがとうございました』

「ううん、こちらこそ。沙樹ちゃんと過ごした時間は私にとって大事な時間だったよ。
……あのね、沙樹ちゃん」

『?何ですか?』

「私、事件が終わったら、沙樹ちゃんに昔の話を教えてあげる、って言ったでしょう?でも、私はもう暫く紀田君にも沙樹ちゃんにも会えないから……紀田君から私の過去の話を聞いてくれるかな?紀田君は私の過去について知ってるから」


電話越しの彼女は少しの間考えていたようだったけれど、


『……私は珠音さんの話を直接貴方に会って聞きたいんです。だから、次に私と珠音さんが会った時に話を聞かせて下さい』


とはっきり言った。


「……解った。沙樹ちゃんの事も紀田君の事も、待ってるよ」

『ありがとうございます。
……あの、珠音さん。
私、どうしても貴方に聞きたい事があって』

「? 何?」

『臨也さんの事です』

「……臨也さん?」


私はチラリと臨也さんを見た。


『珠音さん……珠音さんは、臨也さんの事、嫌いですか?』

「……うん」

『本当に、本当にですか?』

「……そうだよ。何で?」

『珠音さん、前に『私は人の愛し方を知らない』って言いましたよね?
でも……やっぱり私にはそうは思えない。
正臣から何度も聞いてます。『珠音さんは臨也さんの事嫌ってる』って。
でも……初めて臨也さんが珠音さんを私の病室に連れて来た時、私の目からは、珠音さんは臨也さんを嫌ってるようには見えなかったんです。
あの、余計なお世話かもしれないとは思いますけど……自分に嘘をついたりしちゃいけないと思います。
……すみません、長々と一方的に喋っちゃって』

「……ううん、いいの。大丈夫だよ」


私は、自分では、臨也さんの事が嫌いだと思っていた。
ずっとずっと、会った時からずっとそう思ってきた。

でも、最近の私の行動は……どうだろう。

今の私は、本当に彼の事が『嫌い』って言えるのかな。


『……珠音さん?』


沙樹ちゃんの言葉で、私はハッと我に返る。


「あ……ごめんね。沙樹ちゃんの言葉について色々と考えちゃってさ」

『そうですか……。また今度会えた時に、珠音さんの出した結論を聞かせて下さい。
……あ、そろそろ電話切りますね』

「うん、解った。紀田君……ううん、正臣君にも、『また会える日まで待ってるよ』って伝えておいてくれるかな?」

『はい。解りました』

「……じゃあね。またいつか」


私は電話を切ると、それを臨也さんに手渡した。


「彼ら、何だって?」


臨也さんが尋ねてくる。


「正臣君は私にお礼を言ってくれました。それに……謝ってました。『卒業式に行けなくてごめんなさい』って……。
沙樹ちゃんとは……私が今度会った時に昔の話をする事を約束しました」

「……沙樹ちゃんと、俺の話もしてなかった?」

「しました、けど……」

「けど、何?」

「……臨也さんには、言いたくないです」

「何で?」

臨也さんが私の顔を覗き込んでくるので、私は咄嗟に視線を逸らした。


「こっち見てよ」

「嫌です」

「じゃあ、見てくれなくても良いから、話したくない訳を教えてよ」

「それも嫌です」

「……我儘だなぁ」


臨也さんがじわりじわりと私に近づいてくる。
私は少しずつ後退していたけれど、自分のベッドに躓いてそのままベッドに仰向けになって倒れてしまった。
起き上がろうとしたら、臨也さんが私の上に馬乗りになってきた。


「もう逃げられないよ。観念した?」


ニヤリと私の上で笑う彼を見て、私は溜息をついた。
この間のように、キスみたいな事はされたくない。


「……沙樹ちゃんに、私は本当に貴方の事が嫌いなのか聞かれました。その時は直ぐに『嫌い』って言いましたけど……」

「けど?」

「……沙樹ちゃんの話を聞いてから、私は本当は臨也さんの事はそんなに嫌いじゃないんじゃないかって思いました。でも、こんな事を本人に言うの、恥ずかしかったから、言いたくなかったんです」


私の顔は多分羞恥の為に真っ赤に染まっている事だろう。

臨也さんはそんな私を暫く見つめていたけれど、


「君が俺の事を嫌いじゃないって言ったのって初めてじゃない?嬉しいなあ」


と言ってから私の上から降りた。


「……じゃ、俺は仕事に戻るとするよ。君も今日はゆっくり休むと良いよ。色々あって疲れただろう?」

「……はい」


確かに、今日は色々と疲れた。
取り敢えず、昨日は全然眠れなかったから、眠い。寝たい……。

臨也さんは私が素直に返事をした事に満足したようで、すぐに私の部屋から出て行った。

私はお言葉に甘えてーぐっすりと眠りに落ちる事にした。

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