Confusion!!(修正前)
2.
「此処って……」
「そう、露西亜寿司」
露西亜寿司、か……
確かに、私が池袋に来てからずっと行きたいと思っていた場所だ。
「珠音、一度も来た事無かったでしょ?だから丁度卒業祝いに良いかなと思ってね。
……さ、入ろうか」
店内に入ると、初めに聞こえて来たのは、サイモンさんの不器用な日本語だった。
「オー、イザヤ。昨日ブリネー。目、痛そうヨ」
「痛そうってお前……殴った本人が言うのかよ」
臨也さんが苦笑する。
因みに、今臨也さんは眼帯を付けている状態だ。
「よう。珍しいな、お前が女連れたぁ」
白人の板前さんらしき人が、臨也さんに話しかける。
「まあね。……ここ、座ってもいいの?」
臨也さんがすぐ目の前のカウンターを指差した。
「勿論。それで、今日は何を?」
白人の板前さんが私達に尋ねる。
「俺はいつもの。珠音は?」
「えっと……じゃ、じゃあ、一番安い握りコースで……」
私が小さく呟くと、臨也さんは「俺と同じ奴もう一つね」と言って、勝手に注文を変えてしまった。
「ちょ、臨也さんっ!何勝手に注文変えてるんですか!」
「珠音さあ……俺いつも言ってるじゃん。『我慢するな』って。
どうせ俺に遠慮して1番安いコース選んだんでしょ?」
「それは……そうですけど」
「君はまだ子供なんだからさ、素直に大人の好意に甘えとけばいいんだよ。その分、君は俺を楽しませてくれればいいんだから」
どうしたんだろう。
今日の臨也さんは、本当に臨也さんらしくない。
……まさかとは思うけど、サイモンさんに殴られて何かが変わったのかな?
「……臨也さんを楽しませる事なんて、そう簡単にはできませんよ」
「解ってないなあ。君は君らしく自然体で振る舞えばいいんだよ。俺が珠音を雇ったのは、俺達が初めて出会ったあの日の君の遠慮なき行動が俺の好奇心を擽ったからだしね。
……そういえば、ナイフは?もう持ち歩いてないの?」
突然臨也さんが物騒な事を口走る。
「持ってませんよ。あの頃は自殺願望がありましたけど……今の私にはそんなものありませんから。
貴方とは違って普段から殺し合いの喧嘩をするような恨みも買われてませんしね」
「恨み?俺は別に恨みを買われるような行動をしてるつもりはないんだけどなあ。ただ単に自分の欲望に素直なだけさ」
「その欲望が普通にお金とか女の子とかに向かえば貴方ももう少しまともな人生を送っていたんでしょうね」
「……何?珠音は俺が普通じゃないって言いたいの?」
臨也さんのこの言葉を聞いて、私は少しだけ考え込む。
「んー……普通の人間ではあると思いますよ?」
「へえ…どうして?」
臨也さんが愉しそうに尋ねてきた。
「貴方はセルティさんみたいな妖精でもないし、静雄さんみたいに自動販売機を持ち上げられるような人間でもない。
機械みたいに冷静沈着なわけでも、人を殺すのに何の感慨も抱かないようなタイプでもないです。
だから、至って普通の人間ではあると思います」
「……じゃあ、君は俺の事悪人だって思うかい?」
臨也さんが私を試すように質問をぶつける。
「私にとっては、臨也さんは最低な人間ですよ。でも、一般的に考えた上で『悪人か』と聞かれると、そうは言い切れない気もします。だって臨也さんは、自分の好奇心にどこまでも貪欲なだけですから。
かといって、善人らしさは欠片もありませんけど。
だから、悪人に近い、というのが私の判断です」
「それを聞いて高校時代を思い出したよ。君の考えは新羅に非常に酷似してるね」
へえ……岸谷さんも、私と同じような事を考えていたのか……
……ん?高校時代?
「臨也さん、岸谷さんと同じ高校だったんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「初耳です!」
「因みに、シズちゃんとドタチンとも同じ高校だったよ。……まあ、俺達が通ってたのは、来良の名前が『来神』だった頃だけどね」
「へえ……」
知らなかった……
「話して下さいよ、高校時代の事」
臨也さんにせがんだ時、丁度お寿司が運ばれてきた。
「んー、また時間がある時ね。今はダメ」
臨也さんが人差し指を口の前に添えて片目を瞑った。
……本当はもう少し粘ってみようかとも考えていたけれど、臨也さんがいつも以上に楽しそうに大トロを頬張るので、私は何も言えなくなってしまった。
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