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Confusion!!(修正前)
5.
「波江さん」


私が呼びかけると、彼女はいつもと変わらない冷めた目つきで私を見つめ返した。


「えっと、貴方が帝人君を恨むのは解ります。だから、恨むのは勝手にしてください。
でも……そのせいで、紀田君は傷ついたんです。
私は、波江さんの事は嫌いじゃありません。むしろ『好き』の部類に入ります。だけど、今回の波江さんの行動は、私の中ではちょっと赦せなかったです。
あの、たかが高校生の私が生意気な事を言ってるのは充分解ってます。でも……関係無い人を巻き込んじゃダメだと思います」


波江さんと臨也さんは、どちらも珍しく唖然とした顔つきで私の事を見つめている。

暫く沈黙が続いていたが、そんな沈黙を破ったのは臨也さんの笑い声だった。


「あはは、波江に対してそこまで言うなんていい度胸してるねえ、珠音。流石の俺も感服だよ。
しかも、自分が巻き込まれた事に怒るんじゃなく、紀田君の事で怒るなんて……やっぱり君は面白い。本当に面白いよ珠音!
まったく、波江みたいに、俺の予想通り動いてくれる人もいれば……サイモンやシズちゃん、珠音みたいに、俺の予想を覆す人間もいる。だからこそ、俺は人を愛して愛して愛してやまない……ああ、そうさ。だからきっと、こんなクソッタレな仕事を続けていられるんだろうねえ。
……ヘドが出るぐらい楽しいよ」


ほんの僅か。

紡がれた臨也さんの言葉の中に、ほんの僅かな本音が混じっていた気がした。

でも、そんな彼の感情の吐露を真正面から聞きながらもー


「何度も何度も言うけど……」


やはりいつもと変わらぬ冷徹な声で、波江さんは臨也さんという人間を否定する。


「人間の方は、多分貴方の事が大嫌いよ。
……それから、珠音」


波江さんが私に向き直った。


「貴方の言いたい事は解ったわ。
でも私は、今回の自分の行動に後悔はしていない。
私は、弟をー誠二を心から愛しているの。誰よりも深く、深くね。
だから……誠二の幸せを、そして私から全てを奪ったあの男を貶める為なら……私はなんだってするわ」


……でも、今の矢霧君は、私の目から見ると充分幸せそうだけどな……

納得がいかない表情の私を見つめて、波江さんは溜息をついた。


「確かに、今の誠二はそれなりに幸せな毎日を送っているのかもしれない。
でも、誠二にはあの女が張間美香であると知る必要はなかったのよ。
それなのに、竜ヶ峰帝人のせいで私の計画は丸潰れ。
あの男さえいなければ……」


波江さんが……いつも冷静沈着なあの波江さんが、感情を表に曝け出している。

此処まで波江さんを動かすものって……やっぱり矢霧君なんだろうな。

私の様子を見た臨也さんは、「今の君にはまだ解らないかもしれないけど、そのうち君にも解る時が来るよ」と教えてくれた。

その時ー


「ほほう……遂に女子高生にまで手を出すなんて……新宿の情報屋、折原臨也も落ちぶれたものだな」


部屋の奥からガスマスクを被った白衣の男性が現れる。


「うわぁぁっ!?」


柄にもなく驚いてしまった私は、咄嗟に臨也さんの服の裾をぎゅっと掴んでいた。
突然取り乱し始めた私を見て、臨也さんは失笑する。


「い、臨也さん、この人……誰ですか?」

「あれは、一応新羅の親父さんだよ」

「……え」


絶句。

この人が……
岸谷さんの……お父さん!?


「ふむ。なかなかに可愛いお嬢さんだな。左様。私は新羅の父親、岸谷森厳だ。ところで君の名前は?」

「えっと…愛峰珠音です」

「珠音嬢か。
それで?君は臨也君の恋人なのか?」


……いきなりなんて事を聞いてくるんだろう。


「臨也さんの恋人だなんてあり得ませんよ」


そう返すと、森厳さんは「やはりそうか」と呟いた。
それから臨也さんに向き直り「では、私はこれで帰るとしよう」と言って玄関へと向かう。
臨也さんは森厳さんの後に続いて玄関へと向かい、そこで何かを話していたようだったが、私はそんな話には微塵も興味がなかったので、直行で自室に戻り、ベッドへダイブした。

時計を見るとー時刻は午前4時近くを刺している。

明日は卒業式なのに……
そう言えば……紀田君、明日来られるのかな。

そんな事を考えながら、私はゆっくりと目を閉じた。

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