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Confusion!!(修正前)
2.
「ほんとは直ぐに法螺田の事を教えて、粟楠会の人達に任せちゃっても良かったんだけど……どうせなら、銃でシズちゃんが殺せればラッキーかなと思ってさ」

「ああ、それで俺ぇ通じて、法螺田に静雄の情報を教えたんすね」

「まあね。せめて頭か心臓を撃ってくれれば死んだかもしれないのに、本当に残念だよ」


……って事は、臨也さんは直接静雄さんに手を出してはいなくても、間接的に静雄さんを殺そうとしてたんだ……。

私はぐっと唇を噛み締め、臨也さんを睨みつける。

その時、比嘉さんがクルリと踵を返し、私達とは反対側の空間に声をかけた。


「はい、そういう事らしいです……『母さん』……」


柱の影に向かってそう告げると、比嘉さんは臨也さんとは別種の敬意が籠った態度で一礼した。
同時に、私の鼓膜にオドオドとした『彼女』の声が響き渡る。


「あの、ありがとうございます……じゃあ、あとは家に帰って、普通に暮らして下さい……」


それは、深夜の公園には似合わない声だった。
比嘉さんがそそくさと立ち去った後に、入れ替わって現れたのは一人の少女。
その姿も、声と同じくこの場所に似合わない。


「あの、貴方が……折原……臨也さんですね」


遠慮がちに喋る眼鏡の少女は、私とは視線を合わせずに臨也さんに向かって話し掛けた。
対する彼は、少し嬉しそうに笑いながら語りかける。


「ああ、園原杏里ちゃん……『罪歌』って呼んだ方がいいのかな?いや、乗っ取られてないからやっぱり杏里ちゃんでいいか。
ところで、前に君と会った事があるって覚えてる?」


あ、そっか。
虐められていた杏里ちゃんを助けたの、臨也さんだったっけ。
もっとも、やり方は歪んでいたけれど。


「あなたが……臨也さんだったんですね。あの……あの時は、ありがとうございました」


ペコリと一礼をすると、杏里ちゃんは表情を引き締めて臨也さんに向き直る。


「あの……だから、本当はこんなことしたくないんですけど……」


少女の掌から銀色の刃が飛び出した。
居合いを思わせる滑らかな勢いで、一振りの刀が臨也さんの眼前に現れる。


「貴方の事を……斬らせて貰います」


臨也さんは暫く杏里ちゃんを見つめて微笑を浮かべていたけれど、唐突にこう切り出した。


「杏里ちゃんさ、さっきから珠音の事綺麗に無視してるけど……いいの?結構仲良いんでしょ、君達。
挨拶もなしにそういう事しようとするなんて……珠音も傷つくんじゃない?ねえ?」


臨也さんが私に相槌を求める。
杏里ちゃんは一瞬動揺したけれど、すぐに落ち着きを取り戻した。


「……どうして、愛峰先輩を呼んだんですか」

「んー?俺と珠音が一緒に住んでるって聞いた時の君の顔が見たかったからだよ?」


杏里ちゃんの双眸が大きく見開かれる。
私は拳をぎゅっと握りしめ、俯いてただ座っていた。


「先輩……どう……して?」


杏里ちゃんが私に尋ねる。


「……臨也さんに、色々助けて貰ったから。
前に、私こう言ったよね?『私は半分こっち側の人間だ』って。
私は臨也さんと暮らしてるから……だから半分こっち側の人間なんだよ」


杏里ちゃんが唇を噛み締めた。
こんな顔の杏里ちゃん、初めて見るかもしれない……。


「あなたに、もう一つ質問があります」


杏里ちゃんは刀を構えて臨也さんに向き直った。


「どうして……どうしてこんな事をしたんですか……。紀田君と……竜ヶ峰君を巻き込んで」

「うーん……俺は別に何もしてないよ?後押しすらしてない。ただ、案内標識を出してあげただけなんだけど……そうだねえ、敢えてその行為に理由をつけるとするなら……
好きだからさ。人間がね」

「……?」


首を傾げる杏里ちゃんに、臨也さんは両手を広げながら楽しげに言葉を紡ぐ。


「そう、人間が好きなだけさ。美徳も悪徳も平等にね。嫌いなのは平和島静雄ただ一人だよ。だから俺は、人間の色々な面が見たかったのかもしれないね。
……さて問題です。今の答えは本当でしょうか嘘でしょうか……?」


からかうような調子の臨也さんは、杏里ちゃんを煽っているようにしか見えない。
実際、彼女は静かに目を細めー


「貴方を……支配すれば解りますから……」


私の耳のすぐ横で一陣の風が吹いた。

杏里ちゃんが鋭い動きで臨也さんにとびかかったのだ。
でも、臨也さんは臆病とも受け取れるほどに早く飛び退り、六角堂の中から丘の草むらへと降り立った。


「……ある種の居合いは、速さよりも寧ろ距離感を狂わせる剣術だというけど……本当だね」


……なんか、今すぐ逃げ出したい。
切実に逃げ出したい。
此処は、私がいるべき場所ではないと思う。


「珠音、勝手に帰ったらどうなるか解ってるよね?」


でも、エスパーのように鋭い臨也さんの一言を聞いて、私は帰る事を諦めた。

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あきゅろす。
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