[携帯モード] [URL送信]

Confusion!!(修正前)
1.
翌日 南池袋公園

「もしもし」

『あぁ?おぅ。あんたが将軍様か?紀田?紀田正臣かぁ?』


正臣の携帯の向こう側から聞こえてきたのは、下卑た印象を与える、野太い男の声だった。
正臣達の同年代というよりは、もっと年上という印象を受ける。
まるで、あのブルースクウェアの泉井という男のような。


「どちらさんっすか」

『おぉい。どちらさんじゃねえだろうよ。お前の仲間じゃん。お友達じゃんよぉ』

「は?わけがわかんねーんすけど」

『まあいいや。つーかさ、俺ら、今例の工場跡にいんだけどよ。もうみんな集まっちゃってるんだけど』


ゾクリ、と、正臣の背中が冷え込んだ。
例の工場とは、恐らく黄巾族がアジトにしている廃工場の事だろう。
だとするならば、黄巾族の人間だろうか?しかし、こんな声を聞いた事はー


『俺ぁ法螺田っつーんだけどよ、わかんね?』

「……あ」


ホラダ、という特徴的な単語を聞いて、正臣は数日前の夜に聞いた話を思い出した。


「黒バイクの仲間に頭を割られたっていう……」

『っんだよ、そんなやられ役のイメージなのかよ、あぁ?』

「いや……そういうわけじゃ……」


会ったことの無い筈の男だが、どうして突然電話をしてくるのだろうか。
しかも、よりによってこのタイミングで。

正臣の中に様々な違和感が駆けめぐるが、それによる沈黙をいいことに、法螺田は尊大な声色で正臣にひとつの事実を宣告する。


『あー、んで、あれだ。お前よ、もう来なくていいぞ』

「は?」

『だからよぉ。お前はもうクビ。将軍クビ。打ち首だ打ち首』

「なに言ってんだよ、あんた」


馴れ馴れしいを通り越した相手の物言いに、正臣は訳が解らずに苛立ち始める。

だが、次の瞬間ー相手の男はその苛立ちを瞬時に消し飛ばす言葉を吐き出した。


『竜ヶ峰帝人と愛峰珠音っつーんだっけ?おめーのオトモダチの名前よ』

「なっ……!」


2人の名前が出た瞬間、正臣の全身が凍り付く。
何故、今、よりによってこのタイミングで帝人と珠音の名前が出てくるのかと。


『驚いたわー。俺らちょぉっと驚いたわぁ。まさかダラーズのボスと、折原臨也?とか言う情報屋のお気に入りの女が、うちのボスとオトモダチだったなんてよぉ』

「ちょっと待てよ……誰からそんな話を」

『誰だっていいだろうがよぉ。
つーかよぉ、よくも今まで騙してくれてたもんだなぁ?お?』

「待てよ……俺だってそれを昨日……」


言いかけて、正臣は口をつぐむ。こんな事を言われた後で自分も知ったばかりだと言って、一体誰が信じてくれるというのだろうか。
案の定、電話の向こうからは想像通りの言葉が返ってくる。


『昨日、なんだよ。まさかそれを昨日知ったとか言う気じゃねえだろうな?ずっと同じ学校通って、黄巾族に戻ってくる前は毎日のように一緒につるんどきながら、相手がダラーズだ、折原臨也と繋がってたなんて知りませんでした、なんて通るわきゃねえだろ、この裏切り者がよぉ』

「それは……」

『将軍が裏切ってたなんてなぁ、みんなショックな面してここに並んでるぜ。
で、まあ、新しいリーダーとして俺が選ばれたわけだ、年長者だから当然だわな。
ま、手前にも処刑宣言出しとくからよ。今日はそんな暇ぁねえが、明日以降は池袋の街ぃ歩けねえなあ?』

「だから待てっつってんだろ。みんなと話を……。
……今日は?」


正臣の呟きを聞いて、法螺田は鼻息で笑いながら、正臣を挑発するように言葉を返す。


『とりあえず、今日はー折角正体が解ったんだ。ダラーズのボスを潰して、折原臨也の女を拉致ってあの情報屋をぶちのめす』


それを聞いた瞬間、正臣の全身に冷や汗が滲み、雨と混じった嫌な湿気が体全体を包み込む。


「待ってくれ……ダラーズは、少なくとも帝人と珠音さんは、多分切り裂き魔と関係はー」


正臣の口から流れ出たのは、自分の疑いを晴らす言葉ではなくー帝人と珠音の無罪を主張する言葉だった。
しかし、それを途中で遮って法螺田は下卑た言葉を続けた。


『ああ、まあ、いいんだ。もうどうでもいいんだよんなこたぁ。切り裂き魔なんざきっかけで充分だ、そうだろ?
どのみち、ダラーズと黄巾族はお互いを邪魔に思ってたんだ。だからよ、もういいじゃねえか』

「何がいいってんだよ……お前は一体なんなんだよ!頭ぁ割られたってのの復讐か?」

『それも、どうでもいい事だ。きっかけにはなったし、あのガスマスクもいつか殺すけどな。
まあ、どの道ー俺らぁもう退(ひ)けねぇんだよ』

「退けない……?」


相手の言葉の端に明確な悪意を感じ、正臣は鼓動に合わせて口早に法螺田を問いつめる。


「なんだよ……何を、お前、何をやった……?」

『最後に良いことを教えてやらぁ。ダラーズはもう終わりだ。平和島静雄の野郎も始末したことだしな』

「は……?おい、始末したって何だよ?平和島静雄を……あの化物をどうしたって?」

『手前の知る必要はねえさ。まあ、警察が手前の話を信じてくれる事を祈るんだな。もっとも、警察よりも先に俺らに見つかりゃそれまでだけどなぁ。ハッ!』


最後に鼻で笑う音が入り、電話はあまりにも一方的に切られてしまった。

正臣は慌てて黄巾族の古い仲間達に電話を掛けるがー誰も、電話にでる事はなかった。
高校の終業式もとっくに終わっている筈だし、そもそも終業式になどまじめに出ていない者も多い筈だ。
だが、正臣がかけた電話番号は、その悉(ことごと)くが不通となっていた。
電源が入っていないものもあれば、呼び出し音だけが空しく鳴り響くもの、最初から留守番電話の音声が聞こえてくるものなど様々だったが、誰も出ないという点だけが残酷なまでに平等だった。

繋がらない携帯電話を握り締めながらー
正臣は、2年前を思いだした。
今の状況は、沙樹が攫われた時に似ている。
恋人が攫われたわけではない。
しかし、あの時と同様の罪悪感が、実際に『何か』が起こる前に先走って正臣の全身を縛り付けていた。

黄巾族に未練が無いと言えば嘘になる。
だが、今はそんな事はどうでも良かった。

2年前に自分がブルースクウェアに狙われたように、帝人が黄巾族に狙われたらー
そして、沙樹と同じように、帝人を呼び出す為に杏里が人質に取られたらー
実際、既に珠音は沙樹と同じように、臨也を呼び出す為に人質に取られそうになっている。

このまま行くと、正臣は今の自分の『帰るべき場所』である大切な仲間を、自分は三人も失う事になる。


【過去は寂しがり屋なんだよ。絶対に逃げられない】


かつて臨也が言った言葉が、正臣の心に重くのし掛かる。
こんな形で過去が自分を囚えたのだとしたら、寧ろ逃げ回るべきではなかったのではないかと。
何もかもが、正臣の中の2年前と符号する。


ただ、2年前と違ったのはー

今の正臣は、なんの躊躇いも無く駆け出していたという事だった。

[次へ#]

1/4ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!