Confusion!!(修正前)
3.
『珠音……そ、その話……本当なのか?』
震える手でPDAを差し出すセルティさんに向かって私が黙って頷くと、彼女は私の事を力強く抱き締めてきた。
「セ、セルティさん!?」
『珠音……お前は、臨也の下にいて、苦しくないのか?辛くないのか?そんな事されて……嫌じゃないのか?』
「……大丈夫ですよ。前から言ってますけど、私は元から臨也さんの事は大っ嫌いなんです」
『だったら!どうしてアイツの所にいるんだ!?』
私は、一旦セルティさんから離れ、正面に向き直ってから言葉を紡ぐ。
「……正直、自分でもどうして臨也さんと未だに一緒にいるのか、正確には解りません。臨也さんって歪んだ性格だし、あの人がやってきた事、やろうとしている事は人として最低な事ばかりです。
でも、私が今此処にこうして存在できているのは、臨也さんが私の人生を救ってくれたからなんです。だから私は、彼の下を離れられないんだと思います。
……それに、誰かが傍にいて、あの人の悪巧みを止めなきゃいけないですしね」
おかしいな。何で私、あんな人の事、庇おうとしてるんだろ。
一瞬そんな事をふと思ったが、自分の気持ちに偽りは無いのでまあいいやと割り切ってしまった。
自嘲気味に微笑む私を見て、セルティさんは暫く黙っていたけれど、
『……そうか。珠音が大丈夫なら、私はこれ以上何も口出ししないよ』
と打ち込んだ。
それから、彼女は少し考え込んだ後、こう付け足す。
『……正直、珠音はアイツと離れた方が良いかと思っていたんだが……それでもお前は臨也を選んだんだな』
「?」
首を傾げる私に対し、セルティさんは『ああ、いや、こっちの話だ。気にしないでくれ』と伝え、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「セルティさん、さっきの話、絶対内緒ですよ」
私が念を押した時、丁度岸谷さんがリビングに入ってきた。
『終わったのか?』
「まあね。静雄の身体切るのにメスが何本かイカれたけど」
「あ、あの」
私は、岸谷さんに唐突に質問をぶつけようとするが、彼は既に私が聞きたい事を理解していたようで「静雄の事かい?」と逆に私に尋ねてきた。
私がコクリと頷くと、彼はこう言葉を紡ぐ。
「今の所、何の問題もないよ。ちゃんと弾(たま)も取り除いたし、怪我も治してあげたしね。
ただ、今は強い鎮静剤を打ってあるから眠っているけど」
「そうですか……!」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「あの、静雄さんの所に行ってもいいですか」
私が尋ねると、岸谷さんはOKしてくれた。
「ありがとうございます!」
私はニコリと微笑んで、マンションの一番奥の部屋へと歩を進めた。
静雄さんの部屋に行くと、案の定彼は眠っていた。
傷口は丁寧に縫われ、血まみれだった所には綺麗に包帯が巻き付けてある。
トムさんからメールを貰った時は、幾ら静雄さんでも今回はダメなんじゃないかと思い、胸が張り裂けそうだった。
此処に来るまでにも、嫌な想像ばかりが思い浮かんでは消えていたのだ。
そして、静雄さんに会った時。
彼が生きている事に対する喜び、静雄さんの優しさ、そして『池袋の喧嘩人形』と恐れられているあの静雄さんが大怪我をしてしまった事に対する悲しみがぐちゃぐちゃに混じって、私は涙を流してしまった。
でも、無事で本当に良かった……
私は眠っている静雄さんの手をそっと握る。
そこからは、じんわりと彼の体温が伝わってきた。
そして、ホッと安心した私は、眠りの渦に引き込まれていった。
♂♀
珠音が静雄の元へ行った直後、彼女ーセルティ・ストゥルルソンは、岸谷新羅に話しかけていた。
『それで?お前はいつから聞いていたんだ?』
「……何の話だい?」
『とぼけるな。聞いていたんだろう?私と珠音の話』
新羅は、差し出されたPDAを見ると、大きな溜息をついた。
「やっぱりバレてたのか。
……ほら、珠音ちゃんが『臨也の元を離れたくない』って言ってただろ?あの辺から聞いてた」
『そうか……この話の内容、誰にも言うなよ?』
「解ってるよ。セルティの秘密は、僕の秘密でもあるんだからさ」
そして新羅はセルティの横に腰掛ける。
『なあ新羅、1つ聞いてもいいか?』
「勿論。どうしたの?」
『珠音は……臨也の事が好きなのか?』
「んー、そうだなあ……」
新羅が腕を組む。
「コレは、あくまで俺の考えだから、一概にそうとは言い切れないんだけど……珠音ちゃんも、少しは臨也の事を男として見てるような気がするよ。でも、静雄の事も気にしてるみたいだし……。ま、今はどちらかと言うと臨也に気持ちが傾いているような気はするけどね」
『……その事を、臨也と静雄は知っているのか?』
「知らないんじゃないかな?
……と言うか、それ以前に、珠音ちゃん自身が自分の気持ちに気付いていないような気がする」
『ああ、それは私も感じていた。珠音はそういう話になるとかなり鈍感だからな。静雄があんなにあからさまな対応をしていても気が付いていないみたいだし』
打ち出された文字を見て、新羅は苦笑する。
「そうだね。静雄は多少なりとも自覚してるとは思うよ。ただ、臨也の方は……ちょっと解らないな。でも、臨也が女の子と同居だなんて前代未聞だし……アイツは自覚はしてない、いや、自覚したくないのかもしれないけど、珠音ちゃんの事を気にしているのかもしれないよ」
『……何だか見ていてもどかしいな。私はどうすればいいんだろう?』
「何もしなくていいと思うよ。こういうのは、ちゃんと自分で自分の気持ちに気が付かないと意味がないからね。だから僕達に出来る事は、彼らを暖かく見守ってあげる事位さ」
『そうか……そうだな。余計な口出しをするよりは、そっちの方がいいな』
セルティは、悩み事が解決してスッキリしたようだった。
「じゃあ、僕らもそろそろ寝ようか。初々しい三角関係の恋模様を語った事だし……セルティ、僕らはベッドの上で愛を深めぶほっ」
『馬鹿な事を言うな』
新羅の言葉を最後まで聞かないうちに、セルティは彼のお腹を一発殴った。
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