Confusion!!(修正前)
4.
それから臨也さんは私を解放すると、紀田君に向かってひとつの推論を並び立てる。
朗々と、朗々と。
「君はこう思ってるんじゃあないか?『自分は確かに沙樹の事が好きだった筈だ。だけど、恐くて彼女を助けに走る事ができなかった。自分は、自分が思っているほどに彼女の事が好きじゃあ無かったんじゃないか?自分の愛は偽りだったのではないか?ただの性欲のようなものだったのか?彼女の身体が目当てだったのだろうか?』ってね。
そしてそれは、自分で悩むうちに、寧ろそうであって欲しいという願望に変わった。ならば、本当に好きな子の為なら、自分は命を賭けて戦える筈だ……
その為の試金石なんだろう?園原杏里って子は」
臨也さんは、反論は疎か、相槌を打つ暇すらも与えない。
ー紀田君……大丈夫かな……
私は黙って彼の反応を待つ。
しばしの沈黙の後、彼はこう言葉を紡いだ。
「……臨也さんがそう思ってるならそれでいいっすよ。
……それでも、俺はやりとげたいだけなんです」
「何をかな?切り裂き魔への復讐?それともダラーズの壊滅?」
「臨也さんの答え次第じゃ、両方になります」
「いい覚悟だね」
そして彼は私の方を一瞬だけ見た。
ーダメ。言っちゃダメ……!
真実を知った時の紀田君の顔を見たくない。
私の心の中の叫びには一切気が付かず、臨也さんは充足感に満ちた表情で頷くと、パン、と両手を合わせて立ち上がる。
そして、芝居がかった動作でクルリと身体を半回転させ、高らかに声を張り上げた。
「解った!君が前に進む為だ、だから俺は、喜んで君に事実にして真実、そしてどうしようもない現実というものを教え込んであげよう。本来この三つは異なる存在だが、時には同一になるといういい例だ!」
「……?」
紀田君が首を傾げる。
「ところで正臣君。
帝人君は元気かい?」
紀田君の混乱へ更に追い打ちを掛けるように、彼の幼馴染の少年の名前が現れた。
唐突に。
あまりにも、唐突に。
「は……?」
「ほら、去年の春に紹介してくれたじゃないか。君の友達、竜ヶ峰帝人君だよ」
「なんで、そこで帝人の名前が出てくるんすか」
「いや、ほら、彼なんかも今の君の状況を見て、凄く心配してるんじゃないかと思ってさ」
「い…臨也さん……やめて下さい!」
私はつい声を上げてしまった。
「……邪魔しないでくれるかな?
俺はただ単に、正臣君に帝人君の様子を聞いてるだけなんだけど?」
「あいつは関係ないでしょう。あいつには黄巾族の事も全然話してないし、いつも通り、奥手君だけど超元気っすよ。あいつは俺とは違って楽しそうに毎日を生きてますよ」
「へえ、そうなんだ。そんな平和な日常を送る彼に、嫉妬しちゃったりしてる?」
「だから、あいつには関係のない話だから……」
僅かに引き出した言葉。
伴って浮き立つ紀田君の動揺。
それを臨也さんは決して見逃さず、淡々と牙を突き立てる。
「関係あるとしたら?」
「は?」
「いやあ、そうかそうか、帝人君は元気そうかぁ。友達の君がこんなに苦しんでいるのに、その原因となってる彼は、楽しく人生を謳歌してるわけだ」
「ちょっと待てよ……どういう事すか、臨也さん」
ダメ。
ヤダ、聞きたくない。
言わないで。
「解ってるくせに」
あまりにも残酷な笑顔を貼り付けながら。
「ダラーズのボスはー君の大事な大事な大親友……竜ヶ峰帝人君さ」
「もっとも、親友と思ってるのは君だけかもしれないけどね」
紀田君の顔が、絶望に歪んだ。
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