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Confusion!!(修正前)
3.
「……珠音、さん……?」


『彼』が呆然と言った。


「……。」


私は、俯いて何も答えない。
『彼』と、顔を合わせたくない。

どうして?
どうして……紀田正臣君がここにいるの?


「あれ?正臣君、珠音の知り合い?」


臨也さんがわざとらしく尋ねた。


「臨也さん……アンタッ……!」

「言っておくけどね正臣君。俺は彼女の命の恩人で、1年ぐらい前から彼女は此処で住み込みのバイトをしてるんだ。切り裂き魔が現れた頃に少しだけ俺の元を離れた事もあったけど、今では彼女は自分の意志で此処にいるんだよ。ねえ、珠音?」

「……っ」


私はその問いには答えず、黙って唇を噛み締める。


「そ……んな……」


紀田君はショックを隠せない様子だ。


「昨日なんか、俺に抱き付いて来たしさあ。本当、ビックリだったよねえ」

「違っ……!だからアレは、そういうんじゃなくて……」

「でも事実だろう?」

「ッ、それは……」


紀田君の前でこんな話はしたくなかった。

何と無く、この短時間で紀田君が臨也さんを毛嫌いしているのが解ったし、こんな状況だったら、私は臨也さんの事が好きなのかと誤解されそうだったからだ。

私だって、ショックを隠せない。

まさか……まさか紀田君が、よりによって紀田君が、黄巾族のボスだったのだから。

紀田君が黄巾族に所属している事は知っていた。
だけど……だけど、こんなのってないよ。
どうして、なんで紀田君がボスなの?

『ダラーズ』のボスが帝人君。
『黄巾族』のリーダーは紀田君。
そして、『罪歌』の母が、杏里ちゃん。

……最悪の状況だ。


「で、君と珠音の感動の再会は置いといて、と……。
聞きたい事は解ってるつもりだよ。……まあ、電話で答えてあげても良かったんだけど、ちょっとそんな軽い話にはならなそうだったからね」

「……」

「君の友達が斬られたんだって?
ええっと、名前は確か……園原杏里ちゃんだっけか?黄巾族の子も何人かやられたみたいだけど、君にとってはそっちの女の子の方が重要みたいだね」


極めて冷静な紀田君を前に、臨也さんがニヤリと嗤った。


「もしかして、沙樹ちゃんと印象がダブっちゃったのかな?」

「やめて下さい」


目を反らす紀田君。
臨也さんはそんな彼の視線を追うように、僅かに体を傾ける。
そして、少年の顔をじっくりと見据えながら、ますます口元を嬉しそうに歪ませた。


「もしもダラーズと黄巾族の抗争に巻き込まれて、君の好きな女の子が大怪我をしたんだとしたらーなるほどなるほど、確かにこれは沙樹ちゃんの件と同じ状況だね」

「……」


沈黙を保つ紀田君を見ても、臨也さんはまるで気にせずに話の続きを紡ぎ出す。


「つまり、なに?今回の件で……逃げずに敵に立ち向かえば、過去の自分を清算できるとでも思ってるのかな?」

「そんな事、思ってません」

「思ってないと思いこもうとしてるだけだろ?」


臨也さんの台詞が、私の胸にもグサリと刺さる。

私が10年前に犯した罪は、臨也さんに話した所で、決して逃れられるようなものではない。

そんな私の気持ちを汲み取ったかのように、臨也さんは私をチラリと見て、愉しそうに嗤った。


「珠音にもね、君と同じように、大切な人に隠している『過去』があるんだ。……まあ、俺には話してくれたんだけど」


そして彼は私の肩を抱く。
私はそれから逃げようとしたが、臨也さんの手が余りにも強かったので逃れる事を諦めた。
私を一瞥してから、またショックを受けたような顔をする紀田君。

嫌だ。今すぐ此処から逃げ出したい。

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