Confusion!!(修正前)
2.
「……このパズルの最後の単語は、『コハクトサントコフェロールカルシウム』よ。……なによ、この専門用語と一般用語が入り混じった性格最悪なクロスワードパズル」
「お見事」
完全に作業を終えた波江さんを見て、臨也さんは両手を軽く叩きながら笑いかけた。
「……見もしないで、全部正確に場所を指示できる貴方もね」
そんな彼に、波江さんも素っ気なくそう返事をする。
今、私は確信した。
折原臨也と矢霧波江は化け物だ。
色んな意味で。
「君がきちんと整理しておいてくれるお陰さ。
……ところで珠音、今何か変な事考えてなかった?」
何この人何でこんなに冴えてるの。
私は内心で冷や汗を流しながら首をプルプルと横に振った。
「それで……」
波江さんが話を続ける。
「粟楠会の四木に送ったメールの【チョコレート】ってなに?」
「ん?拳銃だけどなにか?」
ブッ。
私は、思わず飲みかけていたオレンジジュースを吹き出してしまった。
流石の波江さんも、一瞬だけ動きを止める。
「いやあ、ほら、1年ぐらい前……波江がここに来た直後ぐらいに、粟楠会から拳銃盗んで逃げた奴らがいたろ?」
「ああ……あの忌々しいデュラハンが追っかけてた奴ね。テレビでもあの化物が鎌を振り回してる映像が映ってたからよく覚えてるわ」
「……。」
私は、この話を聞いていてもいいのだろうか?
いくら臨也さんの所に居候しているとは言え、私は決して裏の事情に通じている人間ではないし、臨也さんもそういう仕事は私にはさせない。
私みたいなただの女子高生が聞いていてはいけない会話な気がするけど……
そんな私の気持ちなどには目もくれずに、2人は話を進めて行く。
「うん、その時に、あいつらが盗んだ拳銃の殆どは、警察よりも先にセルティが回収して事なきを得たんだけどさ。まだ一丁だけ見つかってないんだよね。どうもどっかのガキが拾ったらしくてさ、こないだの拳銃強盗に使われたのがそうみたいだよ。アハハハハ」
「……。」
いや、笑えない。
笑えないよ臨也さん。
「……この部屋が盗聴されてない事を心の底から祈ってるわ」
波江さんはそう言って、自発的に次の仕事を探し始めた。
その瞬間、部屋の中のインターホンが鳴り響く。
「おや、誰だろうね。アポはないし、警察のガサ入れならチャイムを鳴らすとは思えないし」
「……まさかとは思うけど、うちの追手じゃないわよね……?」
珍しく波江さんが眉を顰めながら、インターホンについているモニターの映像を確認した。
私は、お客様だったら邪魔者になるだろうと思い、そそくさと自室に戻ろうとする。
「あら……まだ子供ね。高校生ぐらいかしら」
モニターに映る少年を見て、波江さんが不思議そうに呟いた。
子供……?
高校生……?
私はふと歩みを止める。
「ああ、なんだ!もう来たのか!つい10分程前に電話があったばかりだから、来るのは明日かもしれないと思ってたのに。
ただ……ちょっと早すぎるかもね」
いつの間にか、臨也さんは波江さんの肩口からモニターの映像を覗き込んでいて、そこに映る少年の姿を見るや、迷うことなくマンション入口のロックを解除した。
「……誰なの?」
「友達で、大事な弟みたいなもんだけど……まあ、一言で言えばー」
訝しげに尋ねる波江さんに対し、臨也さんは迷う事無く言い放つ。
「捨て駒の……王将かな」
背筋が、ゾワッとした。
嫌な予感だ。そして大抵こういう予感に限って当たってしまう事を、私はよく知っている。
慌てて部屋に戻ろうとする私の手首を掴んだ臨也さんは、私を客間のソファーに座らせ、こう言った。
「今から、黄巾族のボスに会わせてあげる」
と。
高校生。
黄巾族。
昨日のチャットの過去ログの、ブルースクエアと黄巾族の抗争の話。
黄巾族のリーダーの彼女は大怪我をしている。
そしてー三ヶ島沙樹ちゃん。
私の中で、全てが繋がったような気がした。
「波江、珠音がここから逃げないように、見張っててくれる?」
臨也さんはそう言うと、愉しそうに顔を歪めながら玄関へ歩いて行った。
……会いたくない。
会いたくないよ。
そして、『彼』が中に入ってきた。
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