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Confusion!!(修正前)
4.
「臨也さん、か……。
ねえ、沙樹ちゃんは、どうして臨也さんの事をそんなに尊敬してるの?」


私は、1番してみたかった質問を彼女にぶつける。


「……臨也さんは、恩人だから」

「……恩人?」


返ってきた答えに、私は思わず眉を顰めた。


「私……昔家族に虐待を受けていて、でも家族は憎めなくて。
悩んでいた私に手を差し伸べてくれたのが、臨也さんだったんです」

「……。」


似ている。
沙樹ちゃんと私は、似てないけど似ている。

私は、家族が怖くて嫌で耐えられなくて、自らの手で家族を殺めた。

でも、臨也さんに助けてもらって、彼に依存している点では……彼女と私は、とても似ている。


「沙樹ちゃんは、私と似てるね……」


私が少し声を震わせながらそう言うと、彼女は「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけてくれた。


「大丈夫。ごめんね、急に取り乱しちゃって」

「いえ。……あの、珠音さん、私と珠音さんが似てるって…?」

「……ごめん、その話はまた今度にして貰えるかな?今は沙樹ちゃんを紀田君以外の事で悩ませたくないんだ」

「……解りました。
じゃあ、正臣の件が解決したら教えて貰ってもいいですか?」

「……うん」


そして私は、彼女に別れを告げた。

ーごめん、沙樹ちゃん。
ー臨也さんに言われて、過去に向き合えた気がしてたけど……

ー私は、やっぱり自分の過去に怯えてるんだ。


♂♀


新宿に向かう途中、東急ハンズ前でワゴン組の皆さんを発見した。
もっとも、渡草さんだけはいなかったけど。


「しっかし、あの板前、マジで危ねえよな。一歩ずれてりゃ御陀仏だったぞ……って、愛峰?」


門田さんが私を発見した。


「わ〜!みのっち〜!」

「かッ狩沢さん!?」


狩沢さんはそう言って私に飛びついてきた。
腰に手を回す狩沢さんの仕草が少し厭らしい気がする……


「狩沢、もうやめとけ」


門田さんが私から狩沢さんをベリベリと引き剥がした。


「ドタチンのケチ!」


ぷくーっと頬を膨らませる狩沢さん。


「ちょ、みんなして俺の事は無視っすか!?酷いっす!」


遊馬崎さんが嘆いた。


「あーごめんねゆまっち!二次元的美少女のみのっちが可愛くてつい!」

「まあ、仕方ないっすね!珠音さんみたいな二次元的美少女は俺らにとってはアイドルっすから!」

「だからお前らなあ……」


いつものように呆れる門田さん。
私は賑やかな彼らを見て、思わず笑みが零れた。


「愛峰、今日は1人なのか?」


門田さんが私に向き直ってそう尋ねてきたので、私は頷いて言葉を紡いだ。


「あ……まあ、そうですけど。
でもあれからちゃんと臨也さんの元には戻りましたよ」

「えー!?みのっち結局イザイザ選んだのー!?私だったら絶対シ…」


何か言いかけた狩沢さんの口を慌てて抑える遊馬崎さん。

それにしても、『選んだ』って何の事だろう……。


「……悪りぃ。今のは気にしないでくれ」


門田さんが代わりに謝った。

私は首を傾げながら「それで、さっきから何の話してたんですか」と尋ねる。


「ああ、露西亜寿司の板前さんの話っす!なんか、凄かったんすよ!俺達のテーブルの横の壁に向かって、こう、包丁をカコンと投げつけたんす!」

「そうそう!私はちょっとカッコイイと思ったけど」


いつの間にやら解放された狩沢さんが、開き直ったようにペラペラと話す。


「俺もっす。包丁をオモチャにするなといきり立つ料理漫画の主人公と、コマンドサンボで対決する姿が頭に思い浮かんだっす」

「これだから現実と妄想の区別がつかない連中は……!」


怒りを通り越して呆れるしかなくなった様子の門田さんは、片手で頭を抑えながら大仰に首を振った。
そんな門田さんに反論するように、狩沢さんが目を輝かせながら口を開く。


「でもねえドタチン。あの板前さん、マジですごいっぽいよ。元ロシア軍の格闘技の教官やってたとか、アメリカから渡ってきたマフィアと戦った事があるとかなんとか」

「え、そうなんですか?」


私は思わず声をあげてしまう。
ああ、露西亜寿司に行きたくなっちゃったな。
私はなんだかんだで今まであそこに行ったことがないんだ。


「愛峰、そういうデタラメくせえ噂は簡単に信じない方がいいぜ。
ったく……また突飛な妄想を仕入れてきやがって……。
まあ、板前はともかく……確かにサイモンの運動神経とか体力はすげえけどな」

「そうっすよねえ、サイモンさんは静雄さんと臨也さんの喧嘩を止めちゃうし、なんか実はすごい傭兵部隊の隊長とかじゃないんすかね!某国家直属暗殺部隊の追手から逃れる為、世を忍ぶ仮の姿として寿司屋を営んでいるのかも……!」


ー遊馬崎さんの妄想、凄いな。

私は改めて彼に感心する。


「だったら露西亜寿司なんて目立つ店を開くわけねえだろが」


冷静な突っ込みを入れた後、門田さんは独り言を呟いた。


「ま、寿司が美味いからいいけどな。あいつらの過去なんてどうでもよ」


そして、横を通り過ぎた黄色い少年の集団を見て、まだ雨の止まない空を自然と見上げる。

サンシャインが聳える空は幾分か明るさを増したが、雨が止む気配は、まだ、ない。


「結局、過去から逃げられねえのは……本人だけなんだからよ」


ドクン。
私の心臓が早鐘を打った。

これ以上、ここにはいられない気がして、私はいそいそと彼らに別れを告げると、新宿までの道のりを急ぐ。


「おいッ、愛峰!?」


後ろから門田さんの慌てたような声が聞こえた気がしたけれど、私は無視して走り去った。

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