Confusion!!(修正前)
4.
新宿駅に着いて外に出ると、雨がザアザアと降っていた。
ーさっきまでは全然降ってなかったのにな……
傘は持っていない。
雨が降る前にはマンションに辿り着くと思っていたからだ。
私は溜息をつくと、雨の中を傘も差さずに歩き始めた。
走った方がいいのかとも思ったのだが、今は何と無くそんな気分になれなくて、私は雨に打たれてどんどん濡れて行く。
すれ違いざまに色々な人からチラチラと見られたような気がするが、私はそれを気にする事なく歩き続けた。
考えるのは、紀田君と杏里ちゃんの事。
帝人君については、さっき少し様子を確認出来たし、取り敢えずは大丈夫……だと思いたい。
だけど、さっき電話に出ていた時の紀田君は、明らかに様子がおかしかった。
いつもの明るい紀田君とは違っていて、人を寄せ付けないと言うか……氷の様に冷たい目をしていた。
明るい紀田君と、冷たい紀田君。
どっちが本当の紀田君なんだろう。
彼は、心にどんな闇を抱えているんだろう。
そして、杏里ちゃん。
杏里ちゃんも、紀田君が私達と別れてから、すぐに何処かへ行ってしまった。
紀田君の様子を見て、やはり彼女も何かを感じ取ったのだろう。
昨日、直接的にではないけれど、チャットで臨也さんに散々酷い事を言われていたから、何か責任感みたいなものを感じてしまっているのかもしれない。
ー変な事に首を突っ込んでないといいけどな……
そう思っていると、今まで私を打ちつけていた雨が突然止んだ。
「……?」
明らかにおかしいと思い、私は目の前を見上げる。
「……臨也さん」
そこには彼ー折原臨也がいた。
「やっぱり傘持って行かなかったんだ。もうびしょ濡れじゃん。ほら、帰るよ」
「あ、はい……。
臨也さん、迎えに来てくれたんですか?」
「あんまりにも雨が酷かったからね。でも俺、傘1本しか持ってきてないよ」
「……相合傘しろって事ですか」
「良く解ったね」
そう言って彼は私を中に入れてくれた。
「……何か元気無くない?」
「……いえ、別にそんな事は」
「ふぅーん……」
臨也さんは少し不服そうな顔つきだったが、それ以上は何も言わなかった。
その代わりに、私の頭をポンポンと撫でる。
何故だろう、一瞬だけ頭に感じる臨也さんの温もりに、無性に泣きたくなった。
「……狡いよ……」
臨也さんは狡いよ。
こんな時に限って、優しくするだなんて。
この人の事は嫌いだけど。
今の私にはそんな事どうでもいいように思えて。
私は、彼に抱き付いていた。
「!?」
流石の臨也さんも硬直している。
「珠音……?」
「……」
ふわりと薫る臨也さんの匂いは憎らしい位私好みで。
臨也さんのそれに包まれるだけで安心出来た。
「……変な事してすみませんでした。帰りましょう」
「……やだ」
「は?」
「……悪いのは珠音だからね」
臨也さんは訳の解らない事を言うと、傘を放って両手で私をぎゅうっと抱き締める。
「いッ臨也さん!?早く傘差して下さい!濡れちゃいます!」
「良いよ別に。君だってびしょ濡れなんだしさ」
「私はただの自業自得ですから!」
「そりゃそうだ。でもアレは俺の傘な訳だし、俺の好きなようにさせてよ」
そう言って、彼は更に腕に力を込める。
こんな事になるなら抱きつかなきゃ良かった……
私のバカッ。
でも、いつもは煩わしいはずの臨也さんのその腕の力に、今日だけは励まされているような気がして。
私も、ちょっとだけ手に力を込めてみた。
「……!」
臨也さんがちょっとだけ息を呑んだのが解る。
チラリと彼を見ると、いつもより少しだけ優しげな笑みを浮かべているような気がした。
いつもこんな風に笑えば良いのに。
そうは思うものの、口には出さない。
「さ、帰ろうか」
「はい」
お互いすっかりびしょ濡れになった後、臨也さんは傘を拾い上げてそう告げる。
私はこれ以上濡れないように、臨也さんにピッタリとくっついた。
歩く度にぶつかる彼の手も私の手も、雨に濡れてとても冷たかった。
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