Confusion!!(修正前)
2.
その時、帝人君が別の話題を切り出した。
「そ、そういえばさ……那須島先生って、急に学校辞めたよね」
「……」
帝人君の口から出た名前に、杏里ちゃんが一瞬複雑な表情を見せる。
でも、帝人君はそんなことには欠片も気付かず、校舎を眺めながらよく知らなかった教師の話題を吐き出し続けた。
「なんで辞めたのかな。こんな中途半端な時期に。どうせならあと1週間待てば年度末でキリが良かったのにさ」
その疑問に返事をしたのは、杏里ちゃんではなく紀田君の方だった。
「さあなあ。もしかして俺に期末テストの問題を流してたのがばれたかな?でもそれなら俺もなんか呼び出し喰らってねえとおかしいしな」
「……え?」
紀田君!?
私と同じ事を思ったのか、帝人君も紀田君に恐る恐る質問をする。
「……今、なんかサラリと凄い事言わなかった?」
「サラリとじゃない。結構な勇気を持って自分の罪を告白しました。褒めてくれ。桜の木を折ったワシントンのエピソードが大嘘だと告白した伝記著者の正直さを褒めるように!」
「ややこしい言葉で煙に巻こうとしてる奴の正直さなんて知るもんか」
「全く……紀田君って本当……ちゃっかりしてるって言うか……」
私達のやりとりを見て、杏里ちゃんの複雑な表情は徐々に和らぎ始める。
私はホッと安堵の息を漏らした。
僅かに微笑んだ杏里ちゃんの表情を見て、帝人君は少し照れながら次の話題を切り出した。
「急に消えたって言えば……切り裂き魔もだよね」
……う。
その話を杏里ちゃんにしちゃダメだよ帝人君ッ。
杏里ちゃんをチラリと見ると、案の定彼女は笑顔を消していた。
急に陰りを見せた杏里ちゃんの顔を見て、帝人君は自分の失言に気付き、「ご、ごめん。園原さん。思いださけるつもりじゃ……」と慌てた様子で頭を下げる。
「あ、い、いえ、大丈夫です。すいません。なんでもありませんから」
急に謝られた事に慌てふためき、杏里ちゃんは明確な理由もなく帝人君に謝り返した。
その時。
不意に鳴り響いた携帯のバイブ音が、それまでの空気を瞬時にして断ち切った。
私の携帯ではない。
最近携帯を買った杏里ちゃんのでもない。
そして帝人君のでもない。
「もしもし……俺だけど」
すかさずズボンのポケットから携帯を取り出した紀田君は、電話に出ながら一瞬だけ表情を固まらせた。そして一言二言何かを話した後、素早く電話をしまいながら、手刀を一本顔前に立てて頭を下げる。
「悪りぃ、昔の友達がなんか急用があるっつーからさ」
「あ、そうなの?」
「……」
……黄巾族絡みかな。
私は顔を険しくする。
でも、紀田君はそんな私の様子には気付く事なく話を続ける。
「今日はちょっと帰るわ。恨むなら俺の友達を好きなだけ恨んでくれ。恨むならタダだし俺には被害がない。まさに一石二鳥だからな」
「……これでナンパに行かなくて済んだかと思うと、その友達に感謝の気持ちを捧げたいよ」
「いや、感謝は俺に捧げてくれ」
「暴君だなあ」
「暴君の方が下手な名君より歴史に残るんだぜ。じゃ、また明日な!」
言い訳にもなっていない捨て台詞を残して、紀田君は足早に校門から出て行った。
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