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永久の忠誠を

今日はちょっと失敗をしてしまい、抗争に出向いた私は怪我を負い、帰って報告書を纏めていればカップを倒して台なしになり……その時から既になにかしら、嫌な予感はしていたのだ。
腹に撒かれた包帯を思って腹部を撫で、紅茶で火傷を負った手のひらを見つめ、盛大なため息を吐き出す。

暗くなってしまった廊下を見回すと、未だに明かりの漏れているジョット様の執務室が見える。
まさか報告書を待たせてしまったのだろうか、と焦りが生じて、持っていた書類を握りしめて足を速めた。
軽くノックするけれど、何故か一拍の間。

もしかして、居眠りでもされているのだろうか?
それとも、電気を消し忘れてしっまわれたのだろうか?
なんて首を傾げたけれど、すぐに返事が聞こえたので、深く考えずに扉を開けた。

「……ルナ。どうかしたか?」
「あ、今日の報告書を持ってきました」

握ってしまったからか、皺が寄ってしまった書類を整えながら歩み寄ると、ある程度は綺麗になったそれを少し戸惑いながらも差し出す。
それに軽く目を通したジョット様は私が出向いた抗争の件だと気付かれたらしく、ああ、と声を漏らした。
そしてあるページ……確か、今回の負傷者の事を纏めたところだろう。そこを読まれると、すぐに立ち上がって執務机を避けてこちらへと駆け寄ってくる。

「腹を、怪我したのか」
「……はい。私の不注意で」

言い掛けた所で、ジョット様は私の服を捲られる。
そこにはじわりと血が滲んできている包帯が巻かれていて、それを眺めたジョット様は眉間に皺を寄せられた。
私が怪我したことを悲しんでくれたジョット様に少し嬉しくもなるけれど、それ以上にジョット様を悲しませてしまったことに胸が締め付けられる。
せめてこれをよく見られる前に隠してしまおうかと服を戻して、伺うようにジョット様のお顔を見やる。

「大したことはありません。それより、報告が遅くなってしまってすみませんでした……」
「ああ、それは構わん」

かたん、ジョット様の手が私を追い込む様に机に手をつく。
私はそれによって机に腰がぶつかり、逃げ場を失う。
目の前には恋心以上の気持ちを持ち合わせている方が居て、薄暗い部屋で・・・そんな状況にもなれば、どんな者でも心臓が早鐘をうってしまうというもの。

驚いて見開いた私の目には美しい金が広がり、暖かく柔らかな何かが口に触れる。
一拍おいて口付けられたのだ、と理解するけれど、言葉は出てこない。
それなのに、ジョット様は離れていかれてしまう。
嗚呼、何故、そのようなお顔をされているのですか。
何故そんなにも、今にも泣いてしまいそうな……胸が、締め付けられる。

「すまなかった。よく休め」

そう言って背を向けたジョット様は部屋を出て行かれた。
その場に残された私は崩れる様に床に座り込み、口に触れて考える。
ジョット様に、キスをされた?
そしてそこでもう一つの疑問が浮かび上がる。
血の、味がした。
ジョット様の口が、何故、血の味を・・・?

あの後も変わらずお過ごしになり、私の怪我が治った頃にジョット様は旅立つと言われた。
そして、私はジョット様に頼んで凍り付けにしていただいたのだ。私はあの時、何を思ってそう言ったのかは覚えてはいない、が……





今だから思うのだろうが、ジョット様は御病気だったのだろう。
そして、きっとあの時には、既にジョット様は解っておられたのだ。
自分が、そうは長く生きられまいと。

そして、それをジョット様がお好きで、まだ子供だった霧に知られたくなかったのだろう。
せめて私だけは、もっと……何か、してあげられたのではないだろうか。
そう思っていても、もうあの方は指輪の中にしか居られない。
せめて、また会いに行けたのなら。ジョット様のお好きな紅茶を淹れてさしあげるのに。
ああ、違うな。私が、御側に居たいのだ。

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あきゅろす。
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