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永久の忠誠を
10
いつも何かに縛られている気がしていた。
それが何かはきっと、自分でも解ってる。



醜い笑みを携えた人間がよってたかって、そこらからかっさらってきた人々に値を付けていく。
その中に私は居た。

何故、ここに居るのか。
何故、あのような人間に値踏みされねばならないのか。
何度も考えたけれども、頭が痛むだけで思い出せやしない。

獣の様に鎖で繋がれ、檻に押し込まれたまま、オークションでも楽しんでいるかの様な楽しげな声が聞こえる。
しかしその裏側では、檻から必死に腕を伸ばし、何かに縋ろうとする人々しかいない。
けれどどんなに泣き叫ぼうとも、口に嵌められた物が声を出させてはくれない様だ。

「次はお前の番だぜ」

にやりと口元を歪め、その男は私の檻を引き、会場へと進んでいった。
さっきまでは歪んでいたその顔も、客を前にすれば表面上はにこやかに微笑む。
いくつものライトが私へと向かい、裏方よりも随分暑く感じる。

客席には"いかにも"な面構えの人々から、物珍しそうにしている人々もいた。
それでも結局、彼らのの目は"商品"を見るものでしかない。
そんな中、1人の人間と目があった。

こんなところに来るにしては、異様に澄んだ目をしているのにつまらなそうにおおあくびをかましていた。
斜め後ろに立つ男の様子からして、イタリアンマフィア……のようだが、そのボス(もしくは上司)であろう彼はマフィアらしからぬ雰囲気だ。

次々と値段を上げていくが、最後に1人、爆発的に値段を跳ね上げた男がいた。
その男は、もう一度欠伸をしてみせた。
人間の相場なんて知らないが、少なくとも私ならば人間をそんな金額で買いたくない。
……まあ、私に人買いの趣味がないだけだが。



その男に手渡されて、拘束具を外される。
未だに言うことを聞かない体は重く、ぐらりと揺れた。

その男は私を受け止めるでも、避けるでもなく、ただ見下ろしている。
私は倒れ込みそうになる上半身を必死で支え、その男を見上げた。

「何故、私を買った」

そう言う趣味か、ただの道楽か。
考えた所でそれが答えとも限らない。
せめて、逃げ出せる程に隙がある人間かどうか、逃げたモノを追う人間かどうかを見極めておきたい。

「それが気に入った」

そう言って男は私の顎をすくい上げ、満足そうに口角を吊り上げて見せた。
それ、の意味する物が何かはよくわからないが、コレクターの類ならば後者か……面倒だ。
威嚇の為に手を払いのけ、にらみ返す。

それでも男はわざとらしく驚いてみせるだけで、またすましている。
少しくらい、感情を出せ。不愉快だ。

「ボス!」

会場の方から駆けてきた部下らしき男は、チラと私を盗み見てからすぐに"ボス"へと向き直った。
ボスと呼ばれたその男も、目線を部下にやり、口を開く。

「終わったか」

「はい。ご指示通り」

「ああ」

言うだけ言った部下はまた戻っていき、次いでその男はにっと口端を吊り上げる。
それはまるでいたずらっ子のような、この場にそぐわない顔だった。

「名は何と言う」

その男は実に楽しそうに、私を見る。
それでも何も言わなかった私を見て、その男はそれでも対して気にも止めていない様に言葉を続けた。

「永遠に続く幸せなんて存在しない。が、永遠に続く不幸も存在しない」

すっと伸びてきた手はとても綺麗で、見上げた顔は優しく微笑んでいる。
綺麗な金の髪が揺れ、とても高貴に思えた。

「私の元に来い。私のファミリーになれ」

優しい温もりに、誘われて彼の手を取ってしまった。
最初はそれで良かった。良いと思っていた。

・・・なのに、あいつときたら。
最初の時の様な雰囲気など嘘の様に、日々アホみたいに過ごしやがって……あんな奴に一瞬でも憧れたのかなどと、思いたくない。






迷子の子供。
それに何故かポケットから取り出した飴を投げたジョット様は、その子供の頭をぽんっと撫でて笑う。

そして、あの時と同じように言う。

「永遠の幸せなど存在しないかもしれないが、永遠の不幸も存在しないぞ」

そのまますっと曲がり角を指差す。
その先を追えば、慌ただしく走ってくる女性が曲がり角から現れた。
何かを探す様に辺りを見渡す彼女を見た子供は、瞳を輝かせて走り出す。

その声につられて、彼女も振り返って笑顔で子供を抱き留める。
おそらく、あの子供の母親だろう。
子供は振り返り母に何かを告げながら手を振り、母は深くお辞儀をしていた。

それはとても喜ばしいことだけれど、私にはそれよりもさっきの言葉の方が気に掛かっていた。
あの時のまま、バカみたいに真っ直ぐな儘なのだろうか、この人は。

あの時はまだそれ程の力を有していなかったボンゴレ。
それでも彼は人身売買が許せず(自分の島だから不快だっただけかも知れないが)、参加するに見せかけ、潰しに赴いた。
売られた人々は私を抜いた皆が、故郷へと無事に送り届けられ、取り締まっていた者達は見事に打ち負かしたと聞く。
ボンゴレよりも力あるが、それは大体が口にはだせぬ行為による物、というマフィア組織……そんなもの、「よし壊そう」と思い立って出来る物ではないだろう。
だからこそ、凄い人だと思っていた。

もしかしたら、今も変わらないのだろうか。
彼は……否、ジョット様は、人の利益の為に力を震える方なのだろうか。

「もしもあの子が孤児だったら、どうしましたか」

調べる様に彼を見、私は告げた。
ジョット様はふむと首を捻りる。

「可愛かったからな。持って帰ろうか」

そしてあの頃と同じ、いたずらっこの笑い方。
ああ、そうか。
この方はそういう方なのだ。
自らの行動を人が恨むのは厭わないけれど、自らの行動で人が苦しむのは厭うのだ。

私は知らず、笑ってしまっていた。
そして行くぞと言いながら歩き出した彼に、意識せずに答えていた。

「はい、ジョット様!」

貴方が人を苦しめたくないのなら、私が貴方の苦しみをとって差し上げたい。
貴方が人に憎まれても構わないのなら、私が貴方を愛して差し上げたい。

あなたを、絶対の主とし、忠誠を誓います。ジョット様……

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