永久の忠誠を
7
あの方の考えは本当にわからない。
自らが望んでボスの立場になったにもかかわらず、それでも仕事から逃避する様によくお逃げになる。
そのせいで山積みになった書類も、後に異常な速度で処理してみせるのだから、より一層理解に苦しむ。
お出かけになりたいのなら、その日の分の仕事を急いで片付けて出かけた方が楽に過ごせるだろうに……そして、現在の一番の疑問はこれだ。
彼が指示をし、部下と自分の為に作った守護者の証。
あの時の何気ない会話が元に作られたとは思えない程に意味があり、秘められた力もあるという。
自分の手のひらで頂いた指輪を転がしてみるけれど、どの角度から見ても彼らの物とはまったく違うのだ。
シンプルで、満月の様な黄色い宝石の中に鏤められた小さな星屑の様なもの・・・これは本当に一般の宝石だろうか?
中にキラキラ光るものが入っている宝石なんて、私が知る限りないような気がする。まあ、私が装飾品に疎いのも否定はできないが。
仕方なしに指に嵌めようとするけれど……ぴったり嵌った指を見て再びため息が吐いて出た。
偶然なのか、意味があるのかは謎だが・・・薬指にピッタリとはどういうことだ。
しかもこのデザインも……
「ルナ!ここに居たのか」
指輪に意識を集中させていたからか、急に後ろからかけられた声に肩が跳ねる。
ムダに煩い心臓を押さえる様に指輪事服を握りしめながら振り返れば、そこにはどこか機嫌の良さそうな我らがボス。
その手には何故か花束がいくつも抱えられていて、まったく、この人は何を考えているのだろうか……
相手が敵でなかったことに多少の安心を覚え、ほっと一息を吐きながらも視線は花束へといってしまう。
おそらくはラブレターという名の、と行った所か。
そんなもの、部下を呼んで処分させれば良い物を……自らが触れて何かあったらどうするというのか。
「ん?どうした、まだ指輪を嵌めていないのか」
「・・・ジョット様、これは渡すお相手をお間違いでは……」
ため息を堪えながら指輪を差し出す。
これはどこから見ても、フェーデとしか思えない雰囲気を纏っているのだ。
一応、上司と部下である私が、これを頂く理由はまったくない。というか、いらない。
しかしジョット様は微笑み、それを取り上げて私の指に嵌められた。
「ああ、よく似合う」
指輪を嵌められた私の手を持ち、軽く翳して満足そうにそれを眺めるジョット様。
私としては、恋人ですらいないというのに、何故このような物を貰わねばならないのかと眉間に皺が寄るだけ。
あの微笑みは解っていて尚、それは言うなと暗に仄めかされようなもの。
それでいて、私にこれを渡すのはどういう意味なのか。
私達は婚約関係どころか、恋人でも友人でもないというのに……不愉快だ。
「いらないんですが」
ため息混じりにそう言っても、ジョット様は変わらず笑みを携えるだけ。
この人の行動は裏がある時もない時も、人にそれを悟らせない。
今回がどっちかは解らないが、いらないものを上司から貰うのは不快だ。私が。
「これはルナに与えたんだ、好きにすればいい。そして・・・これも」
そう言って私の手を放すと、花束を抱え直して、その中からひとつ取って私に渡して去っていってしまった。
渡された花束を、『ボンゴレファミリーのボス宛』と勘違いしていた私はそれを忌々しげに睨み付ける。
それでも送り主がただのジョット様ファンの一介の女性だった場合、これをすぐに捨てるのはあんまりだろう。
しょうがなしに端から覗くカードを手に取り、それを開いてみる。
しかし、そこに書いてあった内容を見て、私は自分の愚かさを悔やんだ。
今月生まれのファミリー、全員に配る気なのだろうか……あの方は。
思わず笑いが零れ出て、揺らいだ体を壁で支えた。
こんな事の為に朝から仕事を放って、街へと出かけられたのか・・・
そして、私の誕生日すら覚えているとは。
まったく、あの方の考えは私には解らない。
否、解ろうとしていなかったのかもしれない。
しかたない。
あの方が好きな茶葉も取り寄せたばかりだし、私が淹れると喜ぶし、後で淹れて持って行ってさしあげよう……
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