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永久の忠誠を

「ジョットさ・・・ま」

執務室へと書類片手に入れば、目的の人物は優雅にベランダから脱走を謀ろうとしている最中だった。
手すりに足を掛け、今から飛び降りるのだと言わんばかりの体制でなお、にこやかに振り返ったのにはさすがと言わざるを得ない。
なぜなら彼ほどの身体能力があれば、私が扉を開いた瞬間に飛べたからだ。

「ルナか」

彼は脱走を諦めたのか、後回しにしたのかはわからないが、室内へと戻ってくる。
それと同じくして私もデスクへと歩み寄り、一先ず手持ちの書類をどかし、デスクを整えた。

「何度言えば覚えるのですか。私の名はカルツォルネです。略すにしてもルネでしょうに」

何度訂正しても直さぬ上司に、さすがのカルツォルネも多少いらっとくるものがあったようだ。
彼はデスクに書類を叩きつけるようにして投げ渡す。

上司へとする態度とは到底思えないが、彼はジョットのボスの力量は認めていても、未だに人としては好くことが出来ずにいる。
そんな彼はたまにそういう行動をとるが、ジョットからお咎めを喰らったことなどないため、やめたりはしなかった。

「なぜ、ルナなのですか」

新手の嫌がらせか、自分が名を与えたと威張りたいのか、とカルツォルネは瞬時に考える。
しかし自分が思ったような答えが彼から出るのだろうか、と首を傾げた瞬間、ジョットは口を開いた。

「ルナは月の様だからだ」

そんな返事が返ってくるとは思わなかったカルツォルネは驚きに顔を弾き上げ、ジョットを見やる。
しかしながら彼はカルツォルネに背を向け、壁一面の窓から空を見上げていた。
どんな顔をしてどんな意味を込めて言っているのかなど、わかるはずもない。

「では……今敵陣に赴いている彼女は太陽と言ったところですか」

特に意味があった訳じゃなく、今日は天気いいね、そうだね、というようなつもりで返したのだ。
しかしながらジョットはご機嫌に振り返り、お前もそう思うか!と喜ぶ。

それどころかボス自らの手で部下に茶を淹れるサービスまでしてみせ、室内のソファへとカルツォルネを誘導する。
カルツォルネはと言えば、時間を無駄にする事になった先ほどの失言を悔いながらも、仕方なしにソファに腰を沈めた。

「他はどう思う」

ふいにそう聞かれ、あまり美味しくない紅茶を軽く飲み、彼の意図を読む。
ジョットが言っている事と先ほどの自分の言葉とを照らし合わせれば、彼が認めた6人(先程のを抜けば5人)を同じように例えろと言っているのだろうとわかる。

彼は深く考えずに彼らを思い浮かべると、順にイメージを述べていった。

何者にも捕らわれず、自由気ままな彼はふわりと浮かぶ雲のようだと。
時に荒々しく、戦闘時には止まぬ攻撃を行う彼女は吹き荒ぶ嵐のようだと。
敵対マフィアから拾ってきたのに違和感を感じさせない彼は……霧のようだと。

しかしながら、カルツォルネはそこまで言って黙ってしまう。
どうだろうと頭をひねり始めたところで、今まで聞き手に回っていたジョットが口を開き、楽しそうに彼らを例えてみせた。

太陽の様だと言った者を、ジョットは晴と例えてみせる。
それらを聞き、振り返った彼の笑顔を見、カルツォルネは知らぬ間に微笑を携えていた。

「それならば、貴方は大空の様な方だ」

何故なら振り返った彼は優しく微笑み、しかしながら瞳だけは未だに美しい空色を捉えている。
その優しく雄大な笑顔は、彼らすべてを包み込める度量の深さが見て取れた。

あんなにも纏めづらそうな者達をまとめ上げ、あろう事か一国の主であった者ですら彼のカリスマの前では霞んで見えてしまう。
彼は普通ではない、カルツォルネがそう思ったのを感じ取ったのか偶然なのか、ジョットは口端を吊り上げた。



その後。
彼は守護者の地位を作り上げ、あの時の会話を元にした名を与えた。
しかし、月である彼だけは彼らのような指輪を渡されることなく、シンプルな指輪を渡されたのだ。

そのまた後に、ジョットに心酔したカルツォルネはその指輪を守り抜くのだが、守護者の者達の立場を羨み続けた。
だから、せめて『ルナ』と呼ぶのはあなただけで……

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