Long 『HUNTER×HUNTER』 15 あいつは気付いていない。 自分がさっきまで居たあの世界が、作り物だって事に。 元から無い世界に、行けるはずが無い。 あれは、あのマンガを模して俺が作った、全く別の世界。 かと言っても、俺の仕事はほぼ間違いなくて、あの中の人が違う動きをしたのは、俺にとっても予想外。 そして、あんな簡単に世界から切り離された例も、滅多にない。 こいつは、何者だ? 「俺を、帰らせてくれ」 黙り込んでしまったそいつに、俺はぎゅっと手を握って、頼んだ。 顔が見れなくて、正座のまま俯いていたから、見えるのは自分の手と足と沢山の落ち葉だけ。 「帰って、どうする。あの世界での自分を認められないのなら、また戻ってくるだけだ」 冷静さを失わず、どこまでも響くような、澄んだ声が聞こえる。 俺は握りしめていた手を、更に強く握った。 「なら、どうしたらいい?…あっちの世界に留まるには、どうしたらいい」 「あっちでの自分を嫌わなければいい。簡単だろう」 俺の声が震えてるのは、何でだろう。 そんなにも、あの自分が嫌なのか? そんなにも、この世界が嫌なのか? そんなにも…あいつらに会いたいのか…? でも、簡単じゃない。 記憶が消えていって、誰かの記憶に支配される恐怖は、あまりにも大きなものだ。 それまでの自分が消えて、自分の身代わりに取って代わられてしまいそうな、どうしようもない恐怖… 「!?記憶に、異常が起きたのか!?」 「?ああ。段々、こっちの世界での俺の記憶が消えていって、あっちの世界で暮らしていた誰かの記憶で塗り替えられていた」 「そんな例は今まで一度も無かった」 ・・・どういう、事だ? 俺の記憶は、どうなっている? [*前へ][次へ#] [戻る] |