Long 『HUNTER×HUNTER』
1
「ヒソカ。本当に団長と闘るの、諦めたの?」
がっしりと掴まれていた腕は、いつのまにやら手に変わっていて、俺はもう片手を雨を拾おうと広げて聞いた。
一歩先を歩くヒソカの顔色を窺う事なんて出来なくて、仕方なく、そのまま手のひらに落ちてくる雨粒を眺めていた。
「・・・壊れちゃったからね」
「…ねえ。念を消す能力とか、ないの?」
何も答えないのはないからか、あるからか…
俺には人の心なんて読めないし、顔も見えないから予想も出来ない。
俺が手に入れられたら良いのに…念を消す能力。
後で、落ち着いて考えてみよう。
炎狼だって無限鞄だって、集中したら作るのに成功したんだ。
あとでもっと集中できる所で、じっくり考えてみよう。
引っ張られてる手を、きゅっと握りしめてみる。
雨で冷えていたからか、ヒソカの手がやけに温かく感じた。
ヒソカが宿泊していたらしいホテルまで連れてこられて、俺はとりあえず椅子に座った。
どっかに行ったヒソカを見送りながらも、俺はそのままそこに座っていて、誰も居なくなった部屋を軽く見回してみた。
自宅でもない其処はいくら見たところで、あたりまえだがなんの変哲もなく、必要最低限とも言えるものしかなかった。
目を瞑ってひとつ大きく息を吐くと、椅子に座って強く意識を集中させた。
ぼわーっとしたもやのようなものが浮かんできて、それを形にしていく。
消す…
特定のものを、消せる力がいい。
何の誓約もない状態では、きっとクラピカ程の想いの籠もった念は消せない。
どうしようか…
『生きているものは消さない』(人間は勿論、動植物)
『消すものに見合った代償を支払う』(念がしばらく使えない+身体能力が一時的に減少)
『発動中はそれ以外は強制絶状態』(炎狼&無限鞄の利用等が出来ない)
『同時に幾つも消さない』(まとめて全部消す、みたいな事は出来ない)
『自分には使わない』
『破ったら俺が死ぬ』
・・・これくらいならどうだろ?
きっと、これだけすれば、結構いけるはずだ。
ただ、結構厳しい条件とも言えるけれど…
俺に考えられる中ではなかなかの出来だと思う。
「できた…『消えゆく思物-ゴーストディナー-』…」
創造しただけで、まだ使用してないのにどっと疲れてしまった。
ぐっと椅子の背もたれにもたれ掛かって大きく息を吐いてから、ゆっくりと目を開けた。
「やっと気付いたんだ」
ヒソカの声が聞こえて、俺はゆっくりとした動作でそちらに目をやる。
お風呂に入っていたらしく、着替えをすませて髪を下ろしたヒソカが、ベッドの端に座ってこちらを見ていた。
そして、それと同時に自分に掛かったタオルと、身体がある程度乾いている事に気が付いた。
「あれ…?」
「寝てる見たいに動かないし、勝手に拭いちゃったよ」
「ありがと」
ちらっと時計を見やれば、あれから1時間以上経っていた。
あちゃー…
「で。ゴーストディナーって何かな」
「え゛」
にっこりと問われて、俺は固まった。
言って良い者か、どうか…
でも、俺はクロロの連絡先など知らない訳で。
連絡を取るには少なくとも、ヒソカか旅団メンバーに頼まなければいけないのだ。
・・・しょうがない。
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