Long 『HUNTER×HUNTER』
17
ポケットを漁り、携帯を取り出す。
こっちの世界での知り合いなんて数える程しか居ない上に、携帯を買ったのはついこの前。
キルア・ゴン・シャル・ヒソカ・レオリオ。
その名前しか入っていない。
俺はゴンに電話を掛けた。
数回のコール音の後、小さな機械音を立ててゴンは電話に出た。
「あ、ゴン?クラピカと連絡が取りたいんだけど…」
「クラピカ?待って…」
遠くからはなにやら車の音が聞こえて、多分レオリオもクラピカもその場に居たらしい。
少し話した後に、もしもしと言う典型的な言葉が聞こえる。勿論、クラピカのものだ。
「あ、クラピカ?もしかして、今何かしようとしてた?」
「ん?まあ…そうなるな」
声の調子からしても、みんな一緒に移動中な事からしても…何かを始めようとしているのはすぐに解る事。
恐らくキルアの声がしなかったのは…旅団の見張りか何かと見て、先ず間違いはないだろう。
あの中では、一番向いてそうだしな。
「これから言う事に、余りリアクション取らないでね。適当に相づちをうって聞いて」
「何故だ?」
「まあ…解りやすく言えば、今の状況ではゴンやレオリオに聞かれたくないから、かな」
苦笑混じりに言えば、解ったと返ってくる声。
交渉が早く纏まるのは好きだよ。
「さっきまで俺は旅団の所にいた。予言の能力によれば、俺がクラピカ達の作戦に荷担すれば…俺は消えるそうだ」
適当に打ってくれていた相づちも、急に行き詰まってしまった。
俺は困ったな…と、頬を掻いた。見えてはいないだろうけども。
「だから、そっちの作戦に参加は出来ない。けど、旅団も少し気に入ったから、出来れば全てを殺すなんて…俺はしたくない」
「…っ!何故、私にそれを話した?」
ああ、やっぱり。
コレには黙ってられなかったか…
俺が小さくため息を吐いたのが聞こえてしまったのか、すまないと言われてしまって、俺は構わないと告げる。
まあ、予想はしていた事だ。
ただ、内容がゴン達に伝わらなければいい。
「んー…クラピカは仲間を思ってるから、敵を取りたいだろうし、目を取り返したいと思ってる。でしょ?だから、俺もコレは隠せないと思ったんだ。・・・それより、続き言うよ。俺は俺がしたいようにする。もしかしたら、クラピカ達の邪魔になる事をしてしまうかもしれないし、手助けになる事をするかも知れない・・・それを、言いたかったんだ」
「・・・そうか。解った」
「うん。ありがとな…あ。そうだ。一段落したら、クラピカの番号も教えて欲しいな・・・良かったら、でいいけど」
もしも、俺の行動が気に食わなかったら…
嫌われたら?
そんな恐怖が俺の中で燻っているのも嘘じゃなくて。
答えを待つのがどこか恐くて…ポケットの中に突っ込んでいた指が無意識にさっきの紙を弄り始めてしまう。
「何を言っているんだ。当たり前だろう?…じゃあ、無事でいてくれよ」
「!!ああ…っ!クラピカ達も、気を付けて」
望んではいけないのならば、無事を祈るだけなら…これ位なら、許して。
共に戦う事も、許されないのなら…せめて思わせてくれ。
全ての思いを込めた一言は、クラピカの耳に届き、雨に消された。
無事でいてくれ…!
ぎゅっと握りしめた携帯に額に押しつけて、俺はしばし立ち止まって祈った。
「・・・・・・よし!」
勢いをつけて頭を起こして、俺は携帯をポケットにしまう。
覚悟を決めろ。
できる限りの被害を食い止めよう。
どちらに敵対する事になっても、守りたいものを見失うな。
走り出した俺は4分の1サイズの炎狼を4匹、俺の周りに呼び出した。
「イチはクラピカ。フゥは…団長を。サンはキルア。シイはアジト、だな。それぞれ見張っていてくれ」
名前をそれぞれ新たに付けられたのに戸惑ったらしい、みんなは一瞬それを顔に出すが、すぐに指示通りに方々に飛びさる。
出来れば…じっくり考えて、もっと素敵な名前でも付けてあげたいものだが・・・それでも、良い間考えたにしては上出来だと思う。
・・・順番も解りやすいよね☆
前回以上に目を意識して走っていく。
全ての視界を作れ。
見えないものがあっては意味がない。
「イチ。無限鞄を俺のポケットにくれ」
『解った』
すっと現れた無限鞄に俺は礼を述べて、ごそごそと漁ってサングラスを取り出す。
以前に買った薄い色付きのそれを掛け、俺はまた意識を集中させる。
物事はまず形からってね♪
媒介が出来たお陰か、上手くいったようだ。
サングラス内の左上にイチ、左下にフゥ、右上にサン、右下にシイの視界がそれぞれ移る。
意識を前に戻せば、それは俺の視界に変わる。
しかし、周りに移る彼らの視界は消えることなく其処に半透明に移っている。
「成功…かな?」
テレビを5つつけて、真ん中を見ながらも周りの4つもついつい視界に入る…そんな感じ?
難点をあげるのならば、視界が狭まった分、転びそうになる事か?
みんなの視界を確認しながら走っていた俺は、足下にあった煉瓦サイズの一つの石に気付く事が出来なかった。
ガンッとぶつかった足は傷みを感じながらも、割れた石を振り返りもせずに走り去る。
結構丈夫になってきた俺の体は、あれくらいじゃ何ともない。
ない、が。
「痛いものは痛いよ・・・」
ふと、キルアを発見したサン。
キルアと同じようにアジトを見やる。
キルアはあっさりとサンに気付いて振り返る。
出ていったサンが炎狼だと気付くのに一瞬遅れたみたいだが、敵ではないだろうとすぐに安心してくれたみたいだ。
子犬サイズだからなのか、サンはキルアの横にすり寄っている。
寒かったかな…;
ふと、フゥとシイもアジト内へと潜入を成功したらしい。
まだ全員アジト内に居るらしく、そこに入っていった2匹を警戒している。
しかし、シャルはすぐに炎狼だと気づき、俺の念だと説明してくれているようだ。
音を聞くには更に耳を酷使するから、見た風で状況を把握するしかないから臆測だが。
命令を忠実に実行する2匹はそれぞれ、フゥは団長をじっと観察していて、シイはアジト内を隈無く見渡している。
見た感じは…異変はまだないように思う。
ぐわんっと視界が揺らいだかと思うと、俺は蹌踉めいて足を縺れさせてしまう。
やっぱり、まだ負担が大きい。
「どんな小さな異変でも、すぐに俺へ連絡して。それまでは、目を休める…」
『解った』
俺はみんなに指示を出して、それ以外はサングラスを外す事にした。
4つ重なる返事に、俺は安心してサングラスを外す。
指の腹で目元をマッサージしながら空を仰げば、夕方なのに降る雨で夜中かと錯覚してしまいそうだ。
「気持ちいい…」
冷たい雨が降り注いで、走っていた所為で火照った体を冷やしていく。とても、心地良いものだ。
俺は大きく息を吸うと、また走り出した。
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