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雷蔵視点





自室で静かに本を読んでいたら、突然、がらりと戸が開かれた。

驚いて見れば、そこには普段見る事のない無表情の三郎が、いた。
だがそれも一瞬。それにぎょっとした僕に気付いてか、三郎は直ぐに何時もの喰えない笑みを僕と寸分違わぬ顔に浮かべて部屋に入ってくる。

その隣には…



「………菜月ちゃん?」



え?何で三郎に手を引かれてるの?もしかして告白して成功した?



僕の聞きたい事が分かったのか、菜月ちゃんは首を思いっきり左右に降っている。どうやら違うらしい。

ますます意味が分からない。ここは三郎に聞くしかないな。



「あの、三郎。くのたまの菜月ちゃんを連れてきてどうしたの?」



それに三郎はくつり、と口角を上げたかと思うと、何を思ったのか菜月ちゃんを僕の方へ押しやったのだ。
それにより菜月ちゃんは蹌踉めいて倒れ込んできたのを慌ててぼすり、と受け止める。
今、菜月ちゃんの鼻が思いっきり胸板に打つかって痛そうなんだけど。



「菜月ちゃん大丈夫?ちょっと三郎何してんだ!」

「何って、此奴がぐずぐずしていたから後押ししてやったんだ。」

「はぁ?」

「じゃ、後は若い二人だけでごゆっくり。」



そう、どこぞの見合い様な科白を残して、三郎は部屋を出て行ってしまった。



というか、僕等二人だけでって、えええ……。それってつまり菜月ちゃんの想い人を勘違いしてるって事じゃ、いや鋭い三郎に限ってそんな訳…。
いやでも今の科白ってそう思ってないと言わないよね?



また何時もの癖で思考を巡らせていれば、菜月ちゃんにより引っ張られた袖で思考は浮上された。

彼女はというと、申し訳ないという風に身体を縮込ませながら、小さな小さな消え入りそうな声で呟く。



「ら、雷蔵君。私、私……………鉢屋君に誤解されたぁ…っ。」



そう言い終わらない内に、その大きな瞳には水の膜が張り、ぽろぽろと涙が溢れだしたのを見て僕は慌てて彼女の背を擦りながら手拭いを差し出す。



「菜月ちゃん。落ち着いたら皆を集めて話し合おう?」



その提案に、菜月ちゃんはひゃくり上げながらも力強く頷いた。


勘違いして突っ走るなよ
三郎

(あぁ、どうしよう。僕らの作戦が裏目にでたか。)








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あきゅろす。
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